700cc直3ターボが生み出す加速は小気味よい。レスポンスの鈍い2ペダルMTとはいえ、以前からスマート・クーペに搭載されるものよりは洗練されており、加速時に息をつく感じが軽減されており、ポンポンと軽快にシフトアップする様が心地よく感じられる。
加えて小排気量エンジンゆえの「がんばってるな」と思える回転の使い切り感と、ターボによる元気な押し出しが相まって、実に身の丈な力を生み出しているのだ。
軽自動車よりも一回り大きなボディに与えられたシャシーは、軽自動車とは明らかに一線を画す本格感を伝える。ボディ剛性などもかつてののリッターカーの比ではなく、カチッとした感じがあって好ましい。エンジンががんばって生み出した価値あるスピードを、しっかり受け止め路面に伝えるパフォーマンスはちゃんと備えているのだ。
ワインディングでのハンドリングは量産ミッドシップが多く採用する徹底した安定志向だ。加えてスマート・ロードスターでは見識の高さを感じさせるESPが万全の守備を行う。だからドライバーは思うままに操舵していける。常に安心に裏打ちされているという事実は、気持ちよさに拍車をかける。
もちろんハンドリングも完璧といえないし、前後重量バランスだって決して優秀ではない。先に挙げたようにフロント接地感の希薄さはあるし、ワインディングの下りでは駆動を抜くと巻き込むような雰囲気が伝わる。しかしそれらは全てESPで守られているし、何よりメカニズム全体が生む懐かしさが、それらの不満を全て払拭してくれるのである。
スマート・ロードスターには今後のスポーツカーを考えた時の答えがあるように思えた。
つまり身の丈なサイズと、スパルタンさとは違う快適なシンプルさ、懐かしい乗用車の速さを感じる動力性能、現代の要件をクリアした安全性を含む運動性能などがそれだ。身の丈な懐かしさを感じる楽しさ気持ちよさ、そして一体感…こんな風に特別なものを持ったクルマは、他に変わる存在がない。
しかし何より特別だと感じるのは、他に変わるものがない楽しさ・気持ちよさ・一体感が全開のスポーツカーを、環境への負荷を気にせずに走らせられることである。スマート・ロードスターはワインディングを味わい、高速道路を法定速度+αで走っても、実に約18km/Lという優れた燃費を誇る。これは残念ながら新型プリウスでも実現できない数値である。
スマート・ロードスターの持つスポーツカーとしての存分な魅力と環境に対する低負荷という両立は、まさに未来のスポーツカーの基準ともいえる内容である。例えハイブリッドなどの最新技術を使わずとも、まだ基本的な技術で解決できる部分は多いと感じるし、それをひとつの魅力としてスポーツカーというものを成立できる可能性が感じられる。
スマート・ロードスターは、走りにおいてはとてもプリミティブな魅力を持ちながらも、実はとてもフューチャリスティックなスポーツカーだったのである。