最初に書いた車重と動力性能のバランスを思い出して欲しい。このバランスは、ヴィッツなどに近いと書いたが、スマート・ロードスターはそれらに比べ一回りは小さく、かつ圧倒的に低い。だからヴィッツでは平凡に感じるその動力性能も、このクルマにおいては低さから来る速さがプラスαされ、それが不思議と「懐かしい速さ」として感じられるのだ。誰もがかつて初めてクルマに乗った時のような、スピードに対する驚きをこのクルマでは感じることができる。思えばかつてのクルマは背もそれほど高くなく、速度感は例え60km/hでも存分に感じられた。そんな雰囲気と同じものをスマート・ロードスターから感じ取ることができるのだ。
そしてこの「懐かしい速さ」が、先に挙げたいわゆるネガティブな部分をネガティブではないものにしてくれる。
スローなステアリングも、レスポンスの鈍い6速の2ペダルMTも、そしてフロント接地の甘さやリアの巻き込み感まで、かつてのクルマに共通するような、懐かしさとして感じられるのである。
ではスマート・ロードスターとは、昔のクルマと同じように運動性能において限界が低いクルマなのかというと、それは違うのがエラいところである。
先に挙げたネガティブな要素は、あくまで体感上のものであって、実力としては非常に高いレベルに仕立てられている。くせを承知で走らせていくと、実力の高さはまさに現代の乗用車に対して全くひけをとらないものだと即座に分かるはずだ。しかもそれはスピードが上がるに従って確かなものに変わっていくという、実に頼もしいものでもある。
スマート・ロードスターは700ccターボだが、実に日本車のスピードリミッターが作動する速度まで到達する。そしてここまで速度を引き上げると、ステアリングがスローだったり、シフトのレスポンスが鈍い理由も分かってくる。150-160km/h以上となると、さすがに2360mmしかないホイールベースでは直進性がつらくなる。実際路面変化によって、例えステアリングでは真っ直ぐでもわずかに左右に流れていく感じがある。しかしそれでも不安感を覚えないのは、ステアリングがスローだからである。この特性によって進行方向の微調整がしやすく、安心感を与えてくれる。またシフトするときにもレスポンスが鈍いおかげで変速ショックによる不穏な動きを出さない。そう、この辺りは生まれが感じられる。スマート・ロードスターはあくまで乗用車であり、欧州において求められるクルージング性能を見事に達成していると分かるのだ。
そういった、大型車並みといえる高速での安定「感」(まさに感、だ)を伝えながらも、ワインディングを走らせると実に軽快な部分が味わえるのだから魅力的だ。まるでクルマと人が心を通じ合わせるように、軽やかな一体感で曲がりくねった道を駆け抜けていく。もちろんそこには驚くような加速感や、強烈な横Gは存在しない。しかし、それだからこそ、懐かしい楽しさや気持ち良さが沸き上がってくるのである。
それはマツダ・ロードスターが持つ人車一体感とも違えば、かつてのホンダ・ビートや現在のダイハツ・コペンにあるフレンドリーさともまたひと味違うもの。手に余らない感覚から来る身の丈な感じや、適度な動力性能および運動性能から感じられる一体感は確かに同じ種類と判断できるが、スマート・ロードスターにはそれにプラスして、何か特別なものがあるように感じた。