左手を球状に改められたシフトレバーの上におき、ローにシフトしてピットを出る。背中で回転を高めていく3.2LのV型6気筒DOHCであるC32B型の息づかいは、ノーマルのそれとは明らかに違う。数値的には変わらないというが、明らかにバランス取りされたエンジンの精緻な感じが伝わってくる。非常にゆっくり走りながら徐々に速度を上げ1周目を終える。
最終コーナーの立ち上がりから、まずは全開加速を試す。2速、3速、4速。メーターは直ぐに200km/hをオーバーする。メーター内に新たな2つのランプが追加されていると分かる。タコーメーター内には、グリーンとレッドのランプが与えられ、グリーンはパワーのピークを、レッドはリミットを、それぞれ前後500回転から点灯して知らせる。
非常に高い速度に達しているのだが、クルマ全体が路面にピタリと吸い付くように感じる。初代NSX-Rはもちろん、現行タイプSにもないその確かさは、このマシンで相当に力を入れた部分である空力性能が早くも効果を発揮しているからだろう。
1コーナーが迫り、ブレーキングする。すると非常に信頼感の高い感触と減速Gが伝わってくる。背中を後ろに引っ張られるような強烈な感じは、現行タイプSなどと比べて相当に大幅な性能アップをしていることの証だ。ほぼ同じ感覚でブレーキングしているにも関わらず、1コーナーはまだ遙か先だった。
スリット入りとなったローターと新GPパッドの組み合わせが生み出す制動力は、そんな風にして非常に強力である。この時、初代NSX-Rではリアが動く予感があるが、NSX-Rプロトタイプは安定感が少しも失われぬどころか、一段と路面に吸い付く感覚が増して減速する。
さらに次のラップではABSが効く領域のブレーキも試みたが印象は変わらない。むしろ確かな感触が増す一方だ。初代NSX-RではABSが作動する領域でブレーキペダルからABSが制御を行う様子は感じられるが、その瞬間ペダルの足応えが抜けるようになくなり空走感がある。これに対しプロトタイプでは、ABSが介入すると作動状態を的確に足へと伝え、さらにその状況でもたっぷりとした足応えが残っている。だから躊躇せず、安心してブレーキングできるのである。