
ブレーキを用いた駆動力配分制御はデフギアのカウンターギアとしての効果、つまり左右輪デフでは右輪に減速負荷を掛けると左輪にその負荷分が駆動力として加わるというもの。デフを挟んで左右、あるいは前後の車輪の駆動力の合計は一定になるので、片側を減速すれば片側は加速するのだ。
電子制御4WDシステムでは先進的な制御を行っていたが、BMWのSUVに新たなラインナップとして加わったX3ではxドライブと呼ばれる新システムを採用している。ただし、X3のために開発されたのではなく、X5もマイナーチェンジで、この新システムに変更されている。

簡単に考えれば従来の4WDシステムのほうが自在に駆動力を制御できて、BMWらしい走りの実現に有利に思える。しかし、駆動システムの変更は、BMWのハンドリングへのこだわり以外の何物でもない。
一般的なMP-Tは通常走行では2WD、滑りやすい路面などで2WDでは十分な駆動力が得られない時、あるいは4WDによる安定性が求められる時に4WDに切り替わる。ところが、xドライブは4WD走行を基本として、2WDが有利な時にFRあるいはそれに近い駆動力配分となる。
具体的にはコーナーへのアプローチや高速走行でFRに近い駆動配分になる。FRの美点である滑らかな回頭性を求めたのは容易に理解できる。高速安定では4WDのほうが有利なのだが、駆動系やタイヤのストレスの軽減や燃費向上の面からFRとして、安定性に関してはDSCでリカバリーするという現実的なメリットを考えた結果と思われる。

1/10秒オーダーでも十分な性能を得られるが、4WDや高重心、重重量の厳しさがハンドリングに出てしまう。もっとBMWらしく走らせるには、さらに制御精度を高めて、細密なコントロールを行う必要がある。結果として行き着いたのがxドライブなのである。
xドライブの採用はサスチューンにも影響を与える。X5は従来システムからxドライブに合わせてサスチューニングを新しくしている。マイナーチェンジ後のX5には未試乗なので評価はできないが、X3と同傾向のセッティングとのこと。従来X5はストロークを締め上げて重心高と重さを抑え込むようなチューンだったが、X3は深く腰のあるストロークにより力を往なすような味付け。他のBMWと同じように唐突な動きを抑えながら、確実に軽やかにラインをトレースしていくのだ。
X3の試乗記は機会を変えてリポートするが、xドライブを採用したX3が次のSUVの走りのベンチマークとなるのは間違いない。SUVの走りの楽しさと質を革新するといっても過言ではない。