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これを読めばF1の2010年が分かる(2)

2010年F1シーズンプレビューVol.2は「注目のドライバー編」。入れ替わりの激しかった今シーズンのラインナップから、楽しみな組み合わせ、注目の新人などをたっぷりとご紹介します。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

奇跡を掴んだ24人の精鋭たちが魅せる!

「これを読めばF1の2010年が分かる」第二章は「注目のドライバー」を分かりやすく紹介していきましょう。第一章の「基本情報」編では移籍、復帰、デビューなどドライバーラインナップの大部分がシャッフルされたということをお伝えしましたが、24人のラインナップを全て把握するのはなかなか大変な作業です。今回は知っておきたいトピックスを交えながら注目ドライバーをご紹介していきましょう。
「メルセデスGP」のロズベルグとシューマッハー
【写真提供:Daimler】
その前に「F1ドライバー」という職業について少し触れておきたいと思います。「F1ドライバー」という孤高の存在を表す言葉に「世界の限られた20数人」というフレーズがよく使われます。F1を戦うドライバーたちは、誰よりも速く、実力があり、弱肉強食のレースの世界を戦い抜いてきた、まさに精鋭と言えるでしょう。

しかし、実力があるだけではF1のシートを掴むことができません。ベテランで安定したドライビングが持ち味のニック・ハイドフェルドが今年はシートを失いました。さらに、昨年、万年テールエンダー状態の「フォースインディア」チームを表彰台へと導いたジャンカルロ・フィジケラでさえ、レギュラーシートを掴むことができませんでした。2年間、「ウィリアムズ」チームで戦った中嶋一貴もシートを失いましたし、複数のチームと契約目前だったという佐藤琢磨も別のレースへの転向を余儀なくされました。

その反面、今年は新人ドライバーが5人も登場します。そして、何年かのブランクがあいたベテランドライバーがF1に復帰してきたりします。昨年よりもシートの数が増えているにも関わらず、シートを失うドライバーが居て、シートを得る未経験者が居るわけです。F1のシートは実績、実力だけでは得ることができません。それにプラスして、強運を持っていないことにはこの「20数人」の輪の中に加わることは難しいのです。

そういう意味では「20数人」に選ばれることは、まさに「奇跡」と言えるのかもしれませんね。今回はそんな「奇跡」を現実に起こしてしまったF1ドライバーを何人かピックアップしてみたいと思います。

可夢偉が起こした奇跡。日本F1史に新たな1ページ

小林可夢偉【写真提供:Bridgestone Motorsport】
2010年、私たち日本のファンがまず注目したいのは、日本人ただ一人のF1ドライバーとなる小林可夢偉(こばやし・かむい)の存在です。彼は、昨年、終盤の2戦に「トヨタ」から出走し、並みいる強豪たちとバトルを展開しました。そして、今年は「BMWザウバー」チームのレギュラーシートを獲得。彼にとってはいよいよ夢であったF1レギュラードライバーとしてのフル参戦が実現することになったわけです。

育ての親ともいえる「トヨタ」がF1から撤退し、まさに梯子を外された状態に陥ったシーズンオフ。しかし、彼が僅か2戦だけのチャンスを活かし、チャンピオンを相手に一歩も引かないバトルを展開した姿は他チームの関係者の興味を引きつけました。特に強い関心を示したのはキミ・ライコネン、フェリペ・マッサ、そして古くはミハエル・シューマッハーらを見出したペーター・ザウバー氏です。
小林可夢偉【写真提供:Bridgestone Motorsport】
小林可夢偉は新人ドライバーによくありがちな「スポンサー持ち込み」の契約ではありません。それはスポンサーロゴの少ないマシンを見ても一目瞭然です。これまで日本人のF1ドライバーというと「日本製エンジンと抱き合わせ」や「日本企業の強いスポンサード」があってシートを掴んできたパターンがほとんどですが、小林可夢偉は自動車メーカーのバックアップを受けることなく、自分の実力だけでシートを掴んだ、初めての日本人ドライバーと言えるでしょう。

終盤2戦の出走が無ければ、そしてチャンスを活かすことができなければ、彼は今頃、F1ドライバーの夢を諦め、国内レース参戦の準備を進めていたかもしれません。F1デビューできたのは偶然かもしれませんが、少ないチャンスを結果につなげ、シートを獲得できたことはまさに「奇跡」といえます。

39歳で復帰、デ・ラ・ロサが可夢偉をアシスト!

「BMWザウバー」で小林可夢偉のチームメイトとなるのは大ベテランのスペイン人、ペドロ・デ・ラ・ロサです。F1をタマにしか見ない人には聞きなれない名前かもしれませんね。それもそのはず、彼は長年、「マクラーレン」のテストドライバーを務めており、レースドライバーとしての復帰は4年ぶり、フル参戦は実に8年ぶりのことになります。
ペドロ・デ・ラ・ロサ
【写真提供:Bridgestone Motorsport】
テストドライバーというと二流、三流というイメージを抱きがちですが、彼の場合は違います。一流の速さと実力を持っていながらも、弱小チームに身を置かずにトップチームの「マクラーレン」に所属し、影から速いマシン作りをアシストする役割を担ってきました。代役でレースに復帰した2006年も2位表彰台にあがるなど、その実力は誰もが認めるところ。しかし、彼はしゃしゃり出ることなくアシスト役に徹するレース人生を選択してきました。

テスト走行が厳しく制限される今のF1ではテストドライバーという役割が成り立ちません。「BMWザウバー」のボス、ペーター・ザウバー氏はそんなデ・ラ・ロサの経験と実力、そして高い開発能力と人格を評価し、小林のチームメイトに起用しました。チームの立て直しに彼の力が必要だと判断したわけです。デ・ラ・ロサは39歳、小林は今年24歳、実に15歳もの歳の差がある2人ですから、まさに先生と生徒のようなもの。マシンを速くし、F1デビューとなる小林を全面的にアシストすることがデ・ラ・ロサの大きな役割です。「BMWザウバー」は前半戦が大きなチャンスですから、デ・ラ・ロサには悲願の優勝を達成するという「奇跡」を起こして欲しいものですね。

次のページではもう一人の復帰ドライバーをご紹介しましょう。
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