日常という舞台でこそ活きる作品
青山の閑静な住宅街にあるギャラリーcomoで開かれた展示会場で、私は子安一子さんのバッグに初めて出会いました。VAGRIE(ヴァグリエ)というブランド名は、バッグのアトリエという意味から、頭文字のBにかえVを冠した造語とのこと。その名前からして、真面目なものづくりに洒落っ気が感じられ、見渡せばそこに並べられた、すべてのバッグに一貫してあるウィットのように思われました。心の入れもの。心を入れてもらうものだから、飾られる切り花のような鑑賞美ではなく、日常の生活に根をはり、使われて活かされる機能美と主張しているVAGRIEのバッグたち。大阪のサロンSlow Space
既に本物を知る女性には熱烈な支持を得ていて、日本各地からリピーターが自分の定番や新作を求めにいらっしゃるそうです。また、同じデザインのものや色違いのものをいくつも揃え、ライフシーンに合わせて使い分けるという根強い男性ファンもいるのだとか。使い込むほどに、その使い勝手の良さの虜になるらしく、その日も目をキラキラさせた大人の女性で会場は賑わっていました。
「こんなバッグ見たことない」と最初に誰もがそう思うようですが。手に取ってよく見れば見るほど、ディテールのすごさに驚かされてしまうのです。隅々まで縫製が綺麗で、計算し尽くされたパーツの配置と細かい処理、素材の良さは当然ながら、革と上質なナイロン素材などのファブリックの合わせ方の妙。これ以外にないというくらい正確なのです。またファスナーやボタン、ショルダーベルトのバックルといった金具まで、何一つ妥協が無く、大量生産では絶対に成し得ない、職人泣かせと言われるまでの、こだわり抜いたカタチで。オーダーでなく既製品で、ここまで造り込めるとは。
上左/財布 (山羊革)ゴールド 1万8900円・(牛革)マスタード 1万3650円・(オーストリッチ)アカ 5万400円・(トカゲ・牛革)グリーン 2万9400円
上右/フォーマルバッグ(小)1万6800円・(大)3万450円
下左/切り替えし部分を折るとクラッチになるバッグ(マットクロコ) 39万9000円
下右/4wayリュック (ナイロン・牛革) 3万1500円 ※価格はすべて税込
もう一つ感心させられたのは、決してそれほど広いとは言えない会場に所狭しと置かれたそのバッグたちのアイテムの多さでした。アイデアの泉のように、様々なタイプのバッグがあり、小さいものはお財布やカードケースからポーチ、ポシェット、パーティーバッグ、クラッチバッグと。大きいものはハンドバッグ、トート、ショルダーバッグ、リュック、ボストンと。そして、その各々が2ウェイだったり、2トーンだったり、2素材の組み合わせだったり、まるで、アイデアが縦横無尽に遊んでいるのを目の当たりにするようで、その鮮やかな才能に、あっけにとられてしまいました。コレクションを限りなく生み出せる本物のデザイナーに久し振りに遭遇した思いでいっぱいで、心でずっと拍手を送っている状態でした。
ようやく無闇に海外ブランドのみを崇めなくなった今、日本の本当に良い物が再浮上して来て時代がやっと追いついて来ましたね、という言葉にも、穏やかに、そして潔く「いや、そんなものでもなくて、私はただ、変わらないものを創っているの。流行のものは作らないし、興味もない。もちろん、その時々の気分とか、いいものは取り入れることもありますけどね。点じゃないの、線になるもの。長く続く、本質を見抜いてね。」と自分の哲学を自分に言い聞かせるように、一つ一つの言葉を大切につぶやかれました。あ~、ずっと自分の思いに正直に、気負わず、カジュアル感を大事に、普段に軽く使ってもらえるものを創り続けて来た人には、時代の風潮など無縁ということなのでしょう。
日本初のライセンス契約のブランドバッグを手がけた頃から思い描いていた、世界に通用する日本の一流のオリジナルバッグをと、独立してから一筋に創り続ける子安さんのバッグに、すっかり魅了されてしまった私。どうか年内にお気に入りのひとつだけでも、自分へのお祝いに手にしたいものです。来る誕生日やクリスマスプレゼントに、ぜひリストアップ下さい。間違いなく贈られた方の心にヒットするはずです。
【ヴァグリエ】
住所:〒550-0014 大阪市西区北堀江1-7-4 四ツ橋永八ビル2階
TEL:06-6533-2349
営業時間:11:00~19:00
定休日:日曜・祝日・年末年始(12/29~1/4)
※三越日本橋本店 本館1階ハンドバッグサロン「ヴァグリエ」コーナーで。お財布は小物コーナーでも扱っています。