悪いのは曖昧なルールという批判は間違い?
このニュース、全般には「国は減額できるルールを明確化すべきである」という論調が多かったようです(例えば日経新聞の社説など)。確かに現在のルールでは最終的判断を行う余地が厚生労働省に残されており、形式要件を整えても、国が認可しない可能性があるのは事実です。企業側の主張としては、当事者間の合意を尊重すべきだということになります。労使が合意していた、またOBも合意するに至っていた、ということであればそれを認めるのが筋、ということです。
ただ、国も何の理由もなく認めていないわけではありません。OBについては特に労働組合のような交渉を行う団体がありませんし、力関係として会社が強い傾向はあります(会社は減額の合意が得られなければ解散することが可能で、解散時には合意は不要)。国が慎重な判断を行う合理性と必要性はあるわけです。
また規制というとすぐ悪者のように思われがちですが、規制がすべて悪いわけではありません。適切な制度運営が行われるための規制があることは当然です。
国は一定の税制優遇措置等を企業に与えることで企業年金制度の採用を促しています。同時に一定の規制を与えることで制度がきちんと従業員やOBのためになる制度になるよう監督をしています。税制優遇というアメがあることで企業が制度を採用してくれれば、結果として労働者の老後資産準備という形でアメは従業員とOBのためになるわけです。
(企業が自由になりたければ税制優遇のない制度を勝手に設計すればよいという議論がありますが、企業はそんな制度はそもそも採用しないでしょうから、結果として従業員とOBは損をすることになります。この議論はミスリードです)
つまり、優遇と規制はどちらも現実として必要なものであり、重要なのはそのバランスです。キツすぎれば制度は普及しませんし、甘すぎれば制度は悪用される懸念があります。
また、「明確な基準」といいますが、明確化を図りすぎると、形式要件さえ整えればよい、という経営者が現れかねませんし、形式要件と実態がズレた時に、形式要件をきちんと見直し続けなければ規制が形骸化する恐れがあります。実は「明確な基準」という議論もとても難しいことなのです。
私は現在の規制がキツ過ぎるとは思いませんが、これ以上企業を締め付けても企業は制度の廃止を志向する恐れがあると考えています。多くの経営者は企業年金制度はお金がかかる割に企業の業績にプラスにならない人事制度と考え始めているからです(むしろマイナスになることもある)。
このままでは「経営者は企業年金を嫌い、日本の会社員のほとんどは企業年金という安心を失う(少なくとも1500万人はカバーされている制度です)」というオチになりかねません。今回のNTTの裁判がそういう流れにならないような工夫は必要でしょう。企業の肩を持ちすぎない程度の歩み寄りを考えるべきだと思います。
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実際の議論はもっと複雑なのですが、できるだけ簡便にまとめてみました。
「経営者=悪」とか「国=悪」といった一面的な見立てにもとづく議論が多いように思いますが、おそらくそれは正しくないと思います。法律や規制も一律に悪ではなく、バランスを取る大きな役割も担っています。
今回のニュースを見て、企業年金の減額問題について考えるきっかけになれば幸いです。