企業年金減額はもともと簡単ではない
NTTの場合、確定給付企業年金という制度を採用しており、この減額が問題となったわけですが、給付を減らす、というのは簡単な話ではありません。安易な減額が行われるようでは、現役社員もOBも安心して企業年金制度に老後を任せることができないからです。まず現役社員を対象に給付を減らすためには労働組合との労使合意を行い、対象となる従業員の3分の2以上の同意を取る必要があります。そのうえで、厚生労働省に規約変更の認可申請を行い、認可を得なければなりません。会社の一存で行えるわけではありません(ただし、NTTでは現役社員の減額はすでに行われていたとされます)。
OBについて給付を減らすことも簡単な話ではありません。企業年金を受け取る対象者の3分の2に個別の同意を得て、かつ希望する者には旧制度の条件を一時金換算した金額で解約を認めなければなりません。また、給付の削減を行うやむを得ない理由が必要だとしており、減額をしなければ企業年金制度の継続が困難であることや、経営の状況が悪化しており減額することがやむをえないこと、が減額が認められる要件だとされています。また、現役の減額に比べると真にやむを得ない状況でなければ認めないとされています。十分なOBへの説明も求められます。
しかし、今回のNTTの例で注目すべきポイントは、今説明した条件のうち、形式的な要件はすべてクリアしていた、ということです(OBの個別同意等は取得していた)。それをあえて厚生労働省が行政の判断としてストップをかけていたわけです。契約の当事者間では引き下げの了解(全員ではないが)があったものの、認められなかった点について議論になっているわけです。
企業が法令に則り、形式要件を踏まえた申請をしても、国(役所)はそれを認めないことになったわけですが、一方で「NTTはダメで、JALはOKの理由は××だから」というような判断の具体的な根拠は示されません。これでは企業は「我が社の場合は、引き下げが通るのか通らないのか」がはっきりしません。「もしかしたら、景気が悪いときに申請すれば通せるのか?」というような誤解を招きかねません。
しかし、悪いのは本当に曖昧なルールなのでしょうか。会社の希望が通らなかった一方、国はOBの年金受給権を守ったともいえるわけです。
この問題、もう少し考えてみたいと思います。
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