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明治安田生命「業務停止命令」の裏側に隠れた真実

2005年2月末、明治安田生命が金融庁から業務停止命令を受けました。新聞、テレビを騒がせたこの事件はいったい何を物語っているのか? この事件の隠された真実について考えてみたいと思います。

長島 良介

執筆者:長島 良介

生命保険ガイド

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(※こちらの記事は2005年3月時点の情報を元に構成しています)

明治安田生命は現在業務停止中です。2月末の新聞、テレビを騒がせたこの事件はいったい何を物語っているのか? この事件の隠された真実について考えてみたいと思います。

明治安田生命、業務停止命令を受ける

保険金支払いに関するトラブルが原因だった

保険金支払いに関するトラブルが原因だった

金融庁は2005年2月25日、明治安田生命保険に対し、個人向け保険の募集を3月4日から同17日まで禁止する業務停止命令などの行政処分を発動しました。

明治生命は2002年5月の合併前から、「契約者側に詐欺行為があった場合には保険金を支払わない」と、約款の規定を「拡大解釈」して、「支払うべきケース」でも保険金の支払いを拒否したということです。

【参考】保険契約は約款(やっかん)を読んでから!

苦情は162件

その後、合併し、明治安田生命としてスタートを切った後もその支払い拒否は引き継がれました。1999年4月から2004年9月末までに問題のある支払い拒否は162件あったそうです(同程度の数の苦情があったようです)。

金融庁は、今回関係した役員や社員の責任の明確にし、再発を防止するために業務改善命令も出しました。生命保険会社に対する処分は2003年11月の「日本興亜生命保険の12日間の業務停止命令」を上回り、これまでで最も重い処分となるそうです。

なお、保険金支払いなどの業務は通常通り行われるようです。

嘘を勧める募集行為も

繰り返しになりますが明治生命は2002年5月の「合併前」から、「契約者側に詐欺行為があった場合には保険金を支払わない」と、約款の規定を「拡大解釈」して、「支払うべきケース」でも保険金の支払いを拒否したようです。

そして、営業担当者が契約者に「健康状態を告知しないよう」に勧めたり、契約者の健康状態を「本店に正確に報告しない」などの不適切な募集も見つかったわけです。

保険加入には告知は必須

さて、このニュースをなんとなく理解されている方もいらっしゃると思います。そこで、分かりやすく要約してみましょう。

生命保険や医療保険はご存知の通り、契約する時に自分の健康状態や過去の病歴について保険会社に告知、つまり報告しなければいけません。

告知義務の矛盾

過去5年以内の入院や、通院の事実、健康診断での指摘等々、告知書や医師の審査では必ず健康状態と過去の病歴について質問されるので、その質問には正直に答えることが契約の条件となります。

ここで、実は「あったこと」を、「なかった」というような「嘘」の告知をすれば(入院したのに、何も書かない、検査で指摘されたのに黙っていたなどです)当然、契約の条件に反するということで何かしらの処分があります。

【参考】保険に入れない健康状態ってどんなもの?

しかし、生命保険の約款(契約の条件が書かれている)には「契約して2年間、虚偽の報告をした病気で入院しなければ告知義務違反は問いませんという」意味ととれる内容の条文があります。

また一方で詐欺無効といって、別の箇所では「重大な告知義務違反があった場合5年間は保険金を支払わなくていい。」ということも書かれています。

【参考】死んでも保険金が出ないときってどんな時?

そうです。矛盾しているのです。

いったい、どんなやり取りが行われたのか?

明治安田生命はこの矛盾を「保険金を支払わない」という「自社のお金を支払わなければいけない顧客に払わない」という選択を取った結果、顧客から多くの苦情をうけることになりました。

営業職員は、目の前にいるお客様になるであろう方に自分の勧める保険を契約してもらいたい。しかし、話をよくよく聞いてみると、実は告知書に書かなければいけない病歴があるとのこと。

病歴を書いてしまえば、契約できない可能性が高い。しかし、すぐに入院するような病気ではないから、約款の一文を思い出し、「向こう2年間は、この病気で入院しなければ、黙っていても平気ですよ」となる。

このように持ちかけられ、お客さんも営業の人に勧められて心理的には、すっかり契約したいと言う気持ちが高まっている思っているところに「あなたは病歴があるから契約できません」と通告されれば「それは困るよ」ってことになります。

ここで、営業職員とお客さんの「病歴はあるけど契約したい(して欲しい)」というニーズが一致してしまうと、なんとなくお客さんは「営業の人もこう言っているし大丈夫だろう……」と流れに任せて契約してしまった。

そして、契約してしまったこの、契約者が不幸にも、保険金を請求しなければいけない事態が起こったところ保険会社が、「あなたは告知義務違反をしましたね。約款にもあるように、このような虚偽の告知を行った契約者にたいしては、保険金はもとより契約を解除させていただきます」と、保険金の支払いを拒否しました。

オマケに契約も解除。もちろんそれまで支払った保険料もパーです。

報道における「主語」は明治安田生命だった

さて、このようなやり取りがあったかどうかは、推測の域をでないことを念のためお断りしておきます。

しかし、明治安田生命には100件をはるかに超える苦情が現実として寄せられたということは、このようなやり取りがあったとことは、十分に推測できます。このようなやり取りが無ければ、苦情は起きないはずです(もっと非常識なケースもあるかもしれませんが……)。

そして、「明治安田生命」の文字は新聞紙上を賑わすことになりました。どのメディアも、明治安田生命が主語で記事が語られていました。

この事件の記事の主役はあくまで明治安田生命でした。しかし、本当の主役は違うのではないかと私は考えます。

裏側にある見えない真実

私はこの事件は「生命保険」が我々に及ぼす影響の大きさを物語っていると思います。

皆さんはご存知でしょうか?明治安田生命が本来支払うはずだった。そして、支払いを拒否した保険金は約15億円以上だそうです。そして今回、そのお金が支払われるようです。

本来こんな金額を受け取れなかった方が、今までどんな気持ちでいたのでしょうか? 今回の事件の主人公は、保険金を受け取ることが出来なかった契約者だったのではないでしょうか?

営業の人を信じて「これで安心だね」と胸をなでおろしていた家族が一家の大黒柱を失い、あてにしていた保険金が受け取れなかった。そんな人が数多く存在している事実が間違いなくあったはずです。 

今回はこのように、事件の存在が世間に知られるところとなり、行政の罰則が適用され、ある程度は消費者は守られたのかもしれません。

しかし、死亡保険といえば何千万円です。確かに、この方たちは本来、病歴により保険に入れなかった人かもしれません。しかし、いったんOKをもらい、掛け金を払い続けていたのです。

このようにして受け取るために契約した何千万円もの保険金を「告知義務違反」で受け取れなかった人たちは、どのような状況に追い込まれたのでしょう? どのような気持ちだったのでしょう?

人任せでは危険な生命保険

この事件が語るのは、決して売り手の言いなりではなく「自分の責任で生命保険を選ばなければいけない」ということを物語っています。

保険会社や保険会社の営業の人間を責めるのは簡単です。しかし、結局、全て自分に降りかかってきます。仮に責めたとしても今回のように、「やっぱり、払います」なんて都合のいいことが起こるかどうか分かりません。

今回受け取ることになった方々も、こんなことになるなんて想像すらしてなかったのではないでしょうか?

現在、ご自身の保険について理解されておらず、勧められるがままに契約してしまったという方にとっては、告知義務違反だけではありません。いつ、何が原因で今回のような事件の隠れた主人公になるかもしれません。

この事件はそんなことを示唆しているように思えてなりません。皆さんはどのように受け取りますか?

※告知は生命保険においては保険会社が、契約者間の公平性を保つために欠かせないものです。健康が条件である以上どういう理由であれ、病歴のある人にとって壁は決して低くありません。だからこそ、健康な時に真剣に考える必要があることだけは間違いありません。

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