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スローフード運動その1「世界中に広がる活動」 スローフードに帰りましょう

日々の暮らしがどんどん忙しくなっています。気が付かないうちに私たちは、スピードと競争しています。そんな今だから、「食事くらいゆっくり食べよう。」なのです。

執筆者:桜 美香

「食事の時間くらいゆっくりとらない?」
多忙な私たちの食生活に待ったをかける活動が、世界中に広がっています。

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数年前からインターネット関連情報技術(IT)の世界で使われているドッグイヤー(イヌ時間)という言葉。この世界の驚異的な進歩を表現するのに使われている言葉です。
人間の平均寿命は、犬の約7倍といわれています。つまり、犬にとっての1年は、人間にとっては7年に相当することになります。日本では昔から「10年ひと昔」という言い方がありますが、その10年を「ドッグイヤー」で計算するとたった1年半。ITの世界では変化が目まぐるしく、逆に言えばITの世界での1年半とはひと昔前のこと、ということになってしまいます。最近ではITの世界に限らず「月日はドッグイヤーのスピードで進む」という具合に使われ、企業には意志決定の素早さが求められ、「あなたの人生の時間を7倍速アップして生きなさい」ということにもなります。

このドッグイヤーの反対語が「タートルイヤー(亀の時間)」。
亀の時間感覚が、人間の半分以下の速さであることを意味したドッグイヤーに対する言葉です。
お客さんの目の前で生地をこね、ひとつひとつ焼き上げるパンやケーキの人気店、ガラス張りのカウンターの中でひき肉をこね、1枚1枚焼いたハンバーグに好みの野菜やビネガー、オイル、スパイスなどをトッピングしたハンバーガー屋さんに長蛇の列。当然1人当たりの待ち時間は長くなりますが、「おいしいものを食べるためなら待っても平気!満足!」という消費者の嗜好を表わしています。

ドッグイヤーがITの世界を始めとする産業界の傾向を示すキーワードだとしたら、タートルイヤーは消費者に支持され、浸透し始めているキーワードと言えるでしょう。通常よりも手間も時間もかけたタートルイヤーをキーワードとする商品やサービスが消費者にうけています。多様化した消費者の嗜好は時間の価値を見直すきっかけになり、オーダーメイド的なものを求めるようになったと言われていますが、これは注目に値する現象と言えるのではないでしょうか。

この「ドッグイヤーとタートルイヤー」、
食の世界では「ファーストフードとスローフード」という言葉に置き換えられると思います。

『スローフード』という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。
「食事くらいゆっくり食べましょうよ。」というスローフードの提案は、1986年、イタリア北部ピエモンテ州のブラという町で始まりました。きっかけは、ローマの休日でおなじみの観光名所、スペイン広場の一画に、米国系ファーストフードの1号店がオープンしたこと。トリノに住むカルロ・ペトリーニさんという男性が、NPO(非営利組織)の「スローフード協会」を設立して始まりました。1989年にはパリでも「スローフード宣言」が発表されてからは、世界中にこの運動が広がり、ドイツ、スペイン、アメリカ、フィンランド、ブラジル、それにクロアチア、スロベニア、ハンガリーなどの東欧諸国、日本など、世界の38か国、130以上の都市に約7万人の会員を抱える団体に発展しています。スローフード協会は、世界的な規模で拡大している食の均一化に警告をならす団体です。世界中どこでも同じ食物が売られている今の時代、ファーストフードが当たり前になった時代に、美味しい食卓をもう一度考え直そう、という提案を、この協会はしています。

子供たちを含め、消費者に味の教育を進めるスローフード協会の活動に、学校の教員向けのマニュアル本の出版があります。
「今世紀初頭のビタミン発見以来、食文化は常に分析学に支えられるようになってしまった。食は大切な文化で、よき歴史へのアプローチでもある。食を健康やカロリーという表現だけでなくなにかそれ以上のものとして、子供たちに伝えたい。」
「何を食べちゃいけないといったモラルや栄養学的見地に立った学校の食教育のあり方には実感が伴わない。匂いや味の遊びを通じて、子供たちは何が大切かを少しずつ理解していく。だから伝統食から始める必要もない。とっかかりはコーラでも、チョコでもいい。最終的に伝統食に行きつけばいいのだから。。」

フランスでは10年ほど前から「味覚のレッスン」という活動が始まっています。その地域でしかとれない独自の農産物が消える中で、個々の地域の食材を使った食事を作り、小学校に提供する活動だそうです。また、実際にハーブを嗅がせて香りを体験したり、野菜を生のままかじらせたり、地元の食材をどのように調理したらおいしいか、また身体にいいのか、を教えています。
日本でも、数年前から小学校などで、栄養士の方が非常勤講師となり、こどもたちに食教育を行う試みも始まっていると聞きます。
ごく一部ではありますが、料理の専門家や伝統的な一流レストランのシェフが、小学校の家庭科室を使った調理実習をし、同時に味覚教育や素材についての教育もされています。月に数回のカフェテリア方式の給食や、生徒数の減少で余った教室を使って食事専用のダイニングルームを作る学校も増えてきました。

スローフードには、「ゆっくりと消化できる体にやさしい食事を積極的に摂ろう」、「日々忙しくても食事くらいゆっくり味わおう」という概念があります。 素材の得体が知れない、大量生産による加工製品をせかせか頬張るような食生活に待ったをかける運動、
それがスローフードの考え方なのです。

次回の「後編」ではこの運動が始まったイタリアという国の背景などについてお話したいと思います。

★後編も読んでみませんか?
「スローフード運動~その2」→→

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※衛生面および保存状態に起因して食中毒や体調不良を引き起こす場合があります。必ず清潔な状態で、正しい方法で行い、なるべく早めにお召し上がりください。また、持ち運びの際は保存方法に注意してください。

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