Q. 「ヒルドイドを顔に塗るのはやめた方がいい」って本当ですか?

【薬学部教授が解説】ヒルドイドを顔に塗ると、「顔がたるむ」「赤ら顔になる」「危険なのでやめた方がいい」といった話があるようです。実際のところはどうなのか、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. ヒルドイドを顔に塗るのは危険なのでしょうか?

スキンケアする女性

ヒルドイドを顔に塗ると、たるみの原因になる? 本当でしょうか

 

Q. 「アトピー性皮膚炎で、保湿のためにヒルドイドを処方されています。最近、美容系のブログを読んでいた時に、『ヒルドイドを顔に塗るのは危険』『顔に塗ると皮膚がたるむ』『赤ら顔になる』といった情報が書かれていて、このまま使っていて大丈夫なのか不安になりました。ヒルドイドを使い続けるのは、やめた方がいいのでしょうか?」
 

A. 根拠のない噂で、まったく問題ありません。

ヒルドイドの薬効や安全性を正しく理解していただくために、少し専門的になりますが、この薬がどうやって開発されたのかを、まずご説明したいと思います。

「ヒルドイド」に含まれる主たる薬効成分は、ヘパリンに似ているという意味で「ヘパリン類似物質」と呼ばれます。では、そもそも「ヘパリン」とは、何でしょうか。

私たちがケガなどで出血したとき、血がそのまま止まらないと命にかかわります。そのため、私たちの体には「止血」のしくみがあります。そのうち「血液凝固系」では、血液中に存在する凝固因子と呼ばれる一群のタンパク質が働き、最終的にはフィブリンという繊維状のタンパク質が血小板血栓の全体を覆い固めて、止血を完了させます。その一方で、必要以上に血液凝固系が働いてしまうと、血栓が血流を妨げて、「静脈血栓症」のような循環障害が生じてしまうため、私たちの体には、血液凝固が起こり過ぎないように阻止するメカニズムも用意されています。

今から100年くらい前に、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究室で、血液凝固を阻害する新規の生体内物質が発見されました。それがヘパリンで、肝臓から発見されたことから、ギリシャ語で肝臓を意味する“ήπαρ”→hêparに、一般的な薬物の接尾辞-inを付けて、heparinと名付けられました。ヘパリンは、医薬品として応用され、今では血栓塞栓症や播種性血管内凝固症候群(DIC)といった病気の治療に用いられています。しかし、ヘパリンは、強く効きすぎると出血が止まらないという不都合を生じるので、ヘパリンを改良した薬も研究されました。その一つが「ヘパリン類似物質」でした。

ヘパリン類似物質は、もともとドイツのルイトポルド・ウエルク製薬会社で作られたムコ多糖(粘り気のある多糖類)です。そして、有効成分としてヘパリン類似物質(ブタ軟骨由来)を 0.3%含有する商品として開発されたのが「ヒルドイド」です。日本では、1954年にマルホ社が血液凝固を阻止して血行を促進する薬剤として実用化しましたが、あまり高い評価を得られませんでした。マルホ社としてはせっかく開発したのにもったいないと考えたのでしょうか、本来の薬効とは関係のない、この化合物がもつ特性に注目しました。ヘパリン類似物質は、多糖構造の中に硫酸基、カルボキシル基、水酸基などの多くの親水基(水に馴染みやすい部分)を持っているのが特徴で、水と混ぜると分子間に水を貯えることができるので、その高い吸水・保湿性に基づいて主に皮膚保湿剤として用いるように販売戦略を変えたのです。

皆さんがよく知っている多糖類のひとつに、寒天が挙げられます。もちろん寒天とヒルドイドは別物ですが、多糖類からなっていて水分を保持する性質があるという点では同じです。もっと分かりやすく言えば、ヒルドイドを皮膚に塗るというのは、「乾きにくい濡れタオルで皮膚を覆う」程度のものとお考えください。特別すごい薬というわけではありません。ですので、副作用を心配する必要もありません。

顔に使用する際の注意点は、目や口に入らないようにすることです。ヒルドイドは外用剤として、分厚い外表皮で覆われた皮膚であれば全身のどこに使ってもいいのですが、目や口の中は粘膜しかありませんから、そこに薬が与えられると体の中に入ってしまう恐れがあるからです。

ちなみに、ご心配されている「ヒルドイドを使うと、将来皮膚がたるむ」というのは、何の根拠もない噂に過ぎません。ヘパリン類似物質には、皮膚を形作っている「線維芽細胞」の増殖を抑制する作用が知られていますので、その線維芽細胞が減ってしまうと皮膚がたるむと考えたのかもしれませんが、外表皮に与えられたヘパリン類似物質は、皮膚の表面にとどまることで乾燥を防いでいるだけです。皮膚の奥深くまで浸透して皮膚の構造を変えてしまうほどの効果はありません。

一方で、「ヒルドイドを使用すると赤ら顔になることがある」というのは、ある意味では本当で、血行が良くなっている証拠です。薬として効いている結果ですから、一時的に赤ら顔になることは悪いことではなく、効いていてありがたいと思うべきでしょう。顔が赤くなりすぎて気になるという場合は、使う量や使用部位などを工夫して、調整すればいいだけのことです。

なお、最後に余談かもしれませんが、肌の健康を保つには「睡眠」がとても大切です。詳しく知りたい方は、「Q. 睡眠不足で肌荒れするのはなぜですか?」もあわせてお読みください。

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