企業の人材採用/人材採用の考え方

オワハラせずに優秀な人材を繋ぎとめるには(2ページ目)

外資系企業や国内の中堅企業では既に内定も出ている今年の新卒採用。一方で、経団連の指針に則って8月まで面接をしない構えを貫く企業もある。そのような中、既に内定を出した一部の企業が学生に対して就職活動を終わるように強く要請していることが“オワハラ”という言葉で社会問題化している。ここでは、オワハラをせずに優秀な学生を確保する方法について紹介する。

桐田 博史

執筆者:桐田 博史

戦略としての人材採用ガイド


コミュニケーションスタイルを変えて優秀層を繋ぎとめる

このような就職活動を行ってきた内定者を自社に繋ぎとめることは決して容易ではないが、彼らとのコミュニケーションの着想を180度変えていくことでその可能性は高まる。以下にそのための4つのアプローチを示していきたい。

1) 説得せず、気づきのキッカケを与える
多くの採用担当者は、学生からの内定承諾を得るために自社の魅力を熱く語って説き伏せようとする。しかし、これでは期待する効果を得ることは難しい。なぜなら、彼らの就職活動は各企業から一方的に大量の情報を受け取ることに終始してきており、自分の中で会社を選ぶ明確な判断の軸を作り切れていないからである。

会社を選択する基準が曖昧なところにいくら魅力的な情報を投じても、彼ら自身が納得感を持って決断できるはずがない。まずは、自らの軸を明確に認識できるようにリードしていくことが必要である。そのためには、彼らの過去の決断シーンにおける共通点を探すことや、将来の目標の具体化を手伝うことなどが有効である。そこで気づいた軸にフィットする自社の魅力を訴求して初めて、その学生を自社に惹きつけられるようになる。

2) テーラーメイド形式で情報提供する

彼らの主体的な思考を促す際、自ら必要な情報にアプローチし、自らの意志で決断できる環境を提供することが必要になる。よく、内定者懇親会でトップのメッセージを伝えたり、若手社員との座談会をアレンジする会社をみかけるが、画一的なコミュニケーション機会の提供だけは説得力に欠ける。

人間は大きな決断をする際、自分自身で考え抜いたという自覚を持つことでその決定に確信を持てるようになる。したがって、内定者に対しても彼らの求めに応じた情報提供の場を提供することが求められる。ある学生は仕事の現場をつぶさに見たいという要望を持っているかもしれないし、また他の学生は自分の上司になるような年代の社員と話をしたいと考えるかもしれない。多くの内定者を抱える企業の場合、個別対応は大きな手間を要するが、辞退者が増えて追加採用を行う労力に比べれば小さいはずである。

3) コミュニケーションの中心を「個」に置く
採用担当者は企業を代表して多くの学生と接するため、往々にして会社を中心に据えて話をすることが多い。実際、「当社の求める人材は…」「ウチの会社で活躍してもらうためには…」というセリフで最大公約数の情報を発信するケースをよく耳にするが、内定を出した後のコミュニケーションはマンツーマン型にシフトするので、個々人の思いを会社という器でどのように活かせるかということについてコミュニケーションするのが正解である

したがって、具体的に話すべきテーマとしては、将来のキャリアパスのイメージや専門性の活かし方、また、研修やOJTにおける能力開発面のサポートなど、主に個人の意向に深く関わる内容に重点を置くことが効果的である。中途採用に比べて候補者をマスで捉えてしまいがちな新卒採用であるが、いかに「個」にフォーカスするかで勝負が分かれる。

4) 「We」を主語にして主体者意識を植え付ける
アメリカのオバマ大統領が「Yes, we can」のキャッチフレーズで選挙戦に一大旋風を起こしたことはまだ記憶に新しい。主語を“私”ではなく“私達”としたことで多くの共感を呼んだが、同様に、内定者にもできるだけ早い段階で当事者意識を持ってもらうことがカギになる。

「私たち皆の力で会社をドライブしていく」。という想いを内定者と共有するためには、可能な限り学生自身の言葉で自社の将来を語る機会を多くつくっていくことが肝要である。そのためには、「この会社でどんなことをしてみたい?」「この会社はどうすればもっと良くなると思う?」といった、会社を内側から見ることが必要な質問を多く投げかけることが効果的である。大切なことは、採用担当者ではなく、内定者自らが多く話すことである。

あらためて採用活動のスタンスを考える

就職情報サイトが登場して、企業の採用活動や学生の就職活動のスタイルがフォーマット化したことは今さら言うまでもない。そしてその変化による弊害が、今、オワハラという形で顕在化し始めている。これを機に、採用活動のコミュニケーションのスタンスを変え、相互の理解が適正に図れるプロセスを構築していくべきではないだろうか。
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