不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

隣人トラブルがありそうな住宅のときには?

毎日のように顔を合わせる隣人とは気持ちよく付き合いたいものです。すでにトラブルがあるところへ自ら飛び込んでいく必要はありません。しかし、いざ購入しようとする住宅でトラブルがあるようなときには、どうすればよいのでしょうか?(2017年改訂版、初出:2007年10月)

執筆者:平野 雅之


新しい生活に夢を膨らませながら手に入れた住宅。しかし、そこで隣人トラブルがあったなら、買ったことを後悔する羽目にもなりかねません。



question
築5年ほどでちょうど手頃な中古一戸建てがあり、不動産業者の人からは今週中にも契約をするようにと言われています。ところが、その近くに住む友人がこの物件の隣に住んでいる人と知り合いらしく、それとなく聞いてみたところ、この物件の売主との間で何やらトラブルがあるらしいとのことでした。どんな隣人トラブルなのかは具体的に聞けなかったのですが、物件自体は気に入っており何とか契約したいと思っています。どのように対処すればよいのでしょうか?
(東京都立川市 匿名 40代 女性)



answer
ひとくちに「隣人トラブル」といっても、敷地の境界をめぐる争い、建物の軒やひさしの越境、境界近くの擁壁に関する問題、人や車の通行に関する問題、生活騒音やゴミ出しなど生活マナーの問題、ペットの泣き声、あるいはお互いの人間関係など、原因や状況、程度もさまざまです。

いずれにしても、友人から聞いたというその隣人トラブルが実際にあるのかどうか、それがあるとすればどのようなトラブルなのかをはっきりさせてもらわなければなりません。

まず、何らかのトラブルがある場合に、売主と媒介業者にはどのような義務があるのかを考えてみましょう。

言い争い

隣人トラブルは厄介で解決が困難なケースもある

これから購入しようとする物件で何らかの隣人トラブルがあるときに、それをいちばんよく知っているのは(第三者に貸しているのでないかぎり)トラブルの当事者でもある売主自身またはその同居家族のはずです。

そのため売主は、買主(になろうとしている人)に対して、トラブルの内容を告知しなければなりません。

しかし、トラブルがあればどのような些細なことでも告知しなければならないわけではなく、ただ単純に「売主と隣人の仲が悪い」といった程度であれば告知する義務はないでしょう。

多様なトラブルに対して「何が告知すべきもので、何が告知しなくてもよいものか」といった線引きは難しいのですが、「新たな所有者となった買主にも影響があるのかどうか」がひとつの判断材料となります。

その意味では、たとえ重大な隣人トラブルがあったとしても、そのトラブルの原因は売主(またはその家族)が一方的に引き起こしたものであり、所有者が変わることで確実に自然消滅するような内容なら、それを告知する必要はないともいえます。

その一方で、媒介をする不動産業者の義務はどうでしょうか。

建物の越境や、隣地との境界にある擁壁の亀裂、敷地の境界が不明瞭であること、あるいは埋設管の問題(上下水道管やガス管が隣地の敷地を通っている場合)など、現地調査や役所調査などで判明する事実があれば、当然ながら重要事項として買主に説明をしなければなりません。

これは、たとえ隣人との間で現実のトラブルになっていなくても、事実関係として説明が必要なものです。

問題になりやすいのは、売主と隣人の人間関係に起因するトラブルでしょう。基本的な考えかたは「買主に影響を及ぼす可能性のあるトラブルで “不動産業者があらかじめ知っていたこと” については説明しなければならない」というものです。

つまり、事前に知らなかったことについては説明をする義務はなく、隣人トラブルなどがあるかどうかについては売主に聞くだけで済ませるケースが大半です。周辺の住民に対する聞き込み調査をするまでの義務はありません。

そのため、売主が不動産業者に対して黙っていれば、そのまま見過ごされてしまうケースもあり得ます。

なお、宅地建物取引士による重要事項説明を終え売買契約を締結した後に、トラブルの存在が新たに判明したときについての法の規定は曖昧ですが、不動産業者のモラルとして速やかに買主へ説明をしたうえで善後策を講じるべきだと考えられます。

また、以前に大きな話題となった奈良の「騒音おばさん」や大阪の「糞尿おじさん」、あるいは極度のゴミ屋敷などのように広く知れ渡った住民トラブルについては、たとえそれが隣人ではなくても、物件に近ければ(影響を受ける範囲なら)不動産業者は説明をしなければならないと考えるべきでしょう。

買主側の対処方法としては、まずは当然のことながら隣人トラブルの内容を売主に聞かなくてはなりません。それも契約が差し迫ってからではなく、なるべく早い時期にはっきりとさせることが大切です。

このとき、売主に対してストレートに質問をすると、トラブルの内容によっては売主との人間関係がギクシャクすることもあり得ますから、第一段階として媒介をする不動産業者へ事実関係の確認を依頼するようにします。

現地調査や役所調査などで判明しない、隣人関係などのトラブルについては、上で「必ずしも媒介業者に調査義務があるわけではない」という説明をしましたが、買主から調査の依頼があれば話は別です。

もちろん、個々のケースによって限界はありますが、可能な範囲で関係者などへの聞き取り調査をする義務が媒介業者に生じると考えてよいでしょう。

住宅地の樹木

敷地境界近くの樹木が隣人トラブルの種になることもある

それでは、契約直前になってトラブルの存在を告げられたときにはどうでしょうか。

原則論でいえば、宅地建物取引士による重要事項説明を受け、その内容を把握したうえで「買うか買わないか」の最終判断をすることになります。

ところが実際には、重要事項説明が終わればそのまますぐに契約の段取りが組まれていることも少なくありません。

関係者が一同に会しているなかで意思表示をすることが難しいケースも多いでしょうが、自分に影響がありそうなトラブルの存在を告げられたなら、毅然とした態度で契約日時の延期を求めることも必要です。

仮にどうしてもその場で契約をしなければならないケースであれば、期限を定めて「○月○日までにそのトラブルが解決できないとき(または確実に解決できる見込みがたたないとき)には白紙解除とする」といった旨の特約条項を追加してもらうようにするべきでしょう。

いずれにしても、「引き渡しまでに解決する」という口約束だけで契約を締結することは避けなければなりません。自分でトラブルを引き受けるつもりなら話は別ですが……。

隣人トラブルなどの解決方法は、その内容や程度、自分が買おうとしている家(売主側)が原因を作っているのか、それとも被害を受けている側なのかなどによって異なります。

隣人との合意書や念書、確約書などでまるく収まる場合もあれば、第三者の調査や測量、示談交渉などが必要な場合もあるでしょう。とくに敷地境界をめぐる隣人トラブルでは、解決までの期間が長くなりがちです。

しかし、長い時間がかかったとしても、自分で「これなら大丈夫」と確信をもてる段階になるまでは、契約を延期してもらうことを優先してください。

たとえ「どうしても買いたい家」だったとしても、トラブル解決のメドが立たないままで他に売られてしまう心配はあまりないでしょう。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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