マンションの「暮らしの質」と「資産価値」を守る、大規模修繕工事のコツ
築年数が古くなるにつれ、マンションの建物や設備は劣化していくもの。適切なタイミングで大規模修繕工事を行い、維持管理することが快適な暮らしと資産を守ります。複雑な工事をスムーズに進めるコツを、マンション管理の専門家である平賀さんに聞きました。
提供:住宅金融支援機構
お話をうかがった方
All About『賢いマンション暮らし』『マンション管理』ガイド:平賀 功一
ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士、管理業務主任者などの資格をもつ、マンション事業のコンサルタント。e住まい探しドットコム主催。自宅マンションでは管理組合の理事長経験もあり、マンション管理の運営実務にも携わる。
国も重視する、高経年マンションの問題とは
日本のマンションは、総戸数の約17%がすでに築40年を超えています(2021年末時点)。国土交通省の試算では2031年に約2.2倍、2041年には約3.7倍となり、マンション高齢化の時代を迎えると言われています。
平賀功一さん(※以下敬称略)「今後マンションは、管理不全が深刻な問題になるでしょう。2023年度の税制改正大綱では、高経年マンションで長寿命化に資する大規模修繕工事が行われた場合、一定の要件を満たせば固定資産税を減税するという施策が盛り込まれました。国としても、マンションで快適な暮らしが送れるよう、大規模修繕を重視して税制で後押しをしている状態です」
区分所有者が知っておくべき維持管理の重要性
快適なマンションライフは、勝手に備わっているのではなく、努力によって保たれます。特に、高経年マンションでは不具合が生じる割合が高く、維持管理を後回しにすることはできません。
「高経年マンションに生じるハード面の不具合」の詳細はコチラ >>
平賀「必要な大規模修繕工事を行わないと、例えば外壁が剥がれ落ちるなど、居住者だけでなく周辺住民に危害を及ぼす恐れもあります。マンションの管理組合は、地域のためにも適切な維持管理を行うことが求められます」
建物の老朽化と居住者の高齢化が同時進行し、管理ができずにスラム化した「限界マンション」の増加も心配されています。
平賀「区分所有者のすべてが、必ずしも維持管理に関心を持っているわけではないので、管理組合は広報に力を入れ、繰り返しその大切さを訴えていきましょう。SNSを活用したり、リモート会議などを開いたりしてもいいと思います」
大規模修繕工事の9つのステップをチェック
ではここで、実際に大規模修繕工事を行うときの例を見ていきましょう。工事前の準備が7ステップあり、工事中と工事後が各1つずつのステップになっています。
【ステップ1】管理組合の意思決定と修繕委員会の発足
■理事会で、大規模修繕工事の実施の有無を検討する
■理事会とは別に、修繕委員会(プロジェクトチーム)を立ち上げる
【ステップ2】建物調査(劣化診断)
■打検・目視・機械検査などでマンションの劣化状況を診断する
■区分所有者の意向や不具合についてアンケート調査を実施する
■両方の情報を合わせて、大まかな修繕の範囲や方法に目途をつける
【ステップ3】発注方式の選定
■設計・施工・工事監理の発注方式を検討する
■下記の発注方式から、コストバランスで最適なものを選定する
「大規模修繕工事における5種類の工事発注方式」の詳細はコチラ >>
【ステップ4】修繕基本計画の策定
■もっとも重要な修繕基本計画を策定する
■工事見積額の妥当性を検証する
平賀「修繕基本計画とは、具体的な工事項目、範囲、工期、工法から使用部材の単価・数量などの費用までを、設計図面や工事仕様書、見積もり内訳書に落とし込んだもの。この策定作業は大規模修繕工事の心臓部となる重要なステップとなります」
【ステップ5】施工会社の選定
■以下の3つの方法で施工会社を選定する
(1)居住者あるいは管理会社から紹介してもらう
(2)専門誌や業界紙に募集広告を掲載(公募)する
(3)インターネット検索などを活用して自力で探す
【ステップ6】工事費用の確保
■修繕積立金で全額まかなえるか確認する
■費用が不足する場合は、一時金の徴収や融資を検討する
【ステップ7】工事説明会と総会の開催・承認
■居住者に対して工事の目的・内容・費用負担・注意事項などを説明する
■理解が得られたら、総会を開催して承認決議へと進む
いくつもの選択と決断を迫られ、心労が絶えないのがここまでの「工事前の7つのステップ」です。着工中から着工後は、確認作業が主な業務となります。
【ステップ8】正式な契約から工事の実施(工事中)
■管理組合として、正式に工事契約を締結する
■「契約不適合責任」や設計変更・工事遅延に対する取り決めを明文化しておく
■中間検査の立ち会い
【ステップ9】アフターメンテナンス(工事後)
■工事完了後、報告書や設計図書を受け取る
■残金の精算
■引き渡し後の不具合があれば、修補請求などを行う
平賀「9つのステップですべてが終了ではなく、工事完了後、一定期間は不具合の可能性を想定しておくことが重要です。何事もなく数ヵ月が過ぎて初めて、大規模修繕工事は文字通り完了の時期を迎えたと言えるのです」
わかりにくいステップは「大規模修繕の手引き」で確認
とはいえ、大規模修繕工事は10数年に1度しかやって来ません。管理組合の役員になっても、知識や経験が不十分で、何が課題でどこから手をつければいいのか悩むことが多いはずです。
平賀「経験の浅い役員をサポートする参考資料として、住宅金融支援機構がまとめた『大規模修繕の手引き』があります。
工事の実施に当たり特に心配されるのが”工事の見積もりが妥当か””修繕積立金は足りるのか”などの資金面だと思います。この1冊はこうした資金面の不安を和らげ、工事の各ステップを円滑に進めるために役立つ資料集となっています」
■こんなときに使える!「大規模修繕の手引き」
・大規模修繕工事の流れや概要を理事会で勉強したい
・見積書に書かれている用語や工法を調べたい
・修繕積立金が不足するとき、資金計画の見直しの参考資料にしたい
・長期修繕計画を見直すための参考資料としたい
「大規模修繕工事の手引き」には、大規模修繕工事の進め方から修繕積立金の見直しまで、管理組合が知っておきたいポイントが具体的にまとめられています。住宅金融支援機構のWebサイトから無料ダウンロードが可能で、ダイジェスト版は無料で冊子の請求もできます。
「大規模修繕の手引き」を参考にしながら、各管理組合は適時、適切な大規模修繕工事の実施に向けた知識武装に努めるといいでしょう。
「大規模修繕の手引き」無料ダウンロードやダイジェスト版冊子の請求はコチラ >>
「大規模修繕の手引き」と併用したい、住宅金融支援機構の商品とサービス
「大規模修繕の手引き」と組み合わせて使うと便利な、住宅金融支援機構が提供するサービスや金融商品もあります。
【マンションすまい・る債】は、住宅金融支援機構が国の認可を受けて、マンション管理組合向けに発行している利付10年債です。定期的な利息の支払だけでなく、「マンション共用部分リフォーム融資」を利用するときに金利が年0.2%引下げられるなどの特典があります。また、2023年度募集分より、マンション管理計画認定を取得している場合、新規申込み債券については利率が上乗せされます。
【マンションすまい・る債】の詳細はコチラ >>
「マンション共用部リフォーム融資」は、管理組合が実施する共用部分のリフォーム工事や、耐震改修などの工事費用を対象とする融資です。担保が不要なうえ、全期間固定金利のため返済計画が立てやすいメリットがあります。
「マンション共用部分リフォーム融資」の詳細はコチラ >>
「マンションライフサイクルシミュレーション」は、マンションの修繕工事の費用やタイミングを、ウェブサイト上でシミュレーションできるサービスです。平均的な大規模修繕工事費や、今後40年間の修繕積立金の過不足の試算が無料で行えます。
「マンションライフサイクルシミュレーション」の詳細はコチラ>>
維持管理に対する意識が、資産価値を守るための第一歩!
大規模修繕工事は、マンションの資産価値を左右する重要な役割を担います。時が経つとともに、劣化を抑えて価値が上がる「経年優化」を目指すには、どんな心構えが必要なのでしょうか。
平賀「“マンション管理は人なり”と言います。居住者全員が主役となって、大規模修繕工事を成功させるための努力が不可欠です。面倒だから、管理会社がやってくれるから……という考えでは、安全・安心・快適なマンションライフは実現しません。
すべての区分所有者が当事者となり、維持管理に対する知識を身につけることが、資産価値を守るための第一歩となります。『大規模修繕の手引き』や『マンションライフサイクルシミュレーション』などの無料のツールを活用するのもよいでしょう。良質な住居環境を手に入れられるかどうかは、皆さんの意識にかかっているのです」