分譲マンション所有者が知るべき「大規模修繕工事」とは?
分譲マンションに長く快適に住みたいなら、管理会社や理事会に任せきりではなく、住民ひとりひとりが管理計画を知り、考えていく必要があります。今回は、マンションの安全性や快適性を長期間保つために不可欠な大規模修繕工事について、マンション管理の専門家である平賀さんに聞きました。
提供:住宅金融支援機構
お話をうかがった方
All About『賢いマンション暮らし』『マンション管理』ガイド:平賀 功一
ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士、管理業務主任者などの資格をもつ、マンション事業のコンサルタント。e住まい探しドットコム主催。自宅マンションでは管理組合の理事長経験もあり、マンション管理の運営実務にも携わる。
マンションの大規模修繕工事はなぜ必要?
適切に維持管理されていないマンションは、老朽化が著しく進みます。国土交通省の調査(下図)をみると、築40年の高経年マンションでは、漏水や雨漏り、外壁などの剥離のような不具合が生じる割合がとても高いことが分かります。
平賀さん(※以下敬称略)「老朽化によるハード面の不具合を防ぐには、マンション管理組合が長期修繕計画を立て、計画的に大規模修繕工事を行う必要があります。
ただ、建物の老朽化には、ハード面の『物理的な劣化』だけでなく、設備機器の機能が新築物件と相対して陳腐化する『機能的な劣化』、ライフスタイルの多様化や要求水準の高まりから生じる社会とのギャップによる『社会的な劣化』という3つの劣化があります。
安全で快適なマンションライフのためには、大規模修繕工事による『物理的な劣化』や『機能的な劣化』の対策は必須ですが、高経年マンションは特に『社会的な劣化』が深刻です。工事の実施にあたっては、時代のニーズに合った付加価値を追求し、バリューアップを意識した計画を取り入れていくことも重要といえます」
また、マンションの管理に関する計画を各自治体が認定する「マンション管理計画認定制度」もスタートしました。
平賀「マンション管理計画認定制度の創設は、居住者への意識付けによる管理水準の底上げと、中古マンション市場での適正評価の実現を目指しています。国としても、長期修繕計画や大規模修繕工事を重視していくことで、『優良マンションの証し』となるような仕組みを構築したいのでしょう」
大規模修繕工事のタイミングや内容は?
大規模修繕工事は、分譲マンションの共用部分を対象に、おおむね12年~15年周期で実施するケースが一般的です。国土交通省の調査(※1)でも、平均修繕周期は13年が最も多く、全体の約7割が12 ~15年周期で実施していることが分かりました。
平賀「管理組合が検討すべき修繕部位や周期は多岐に渡ります(下表参照)。修繕レベルについては、単なる部資材の補修や交換で終わらないよう、居住者の希望と工事費のバランスを意識しながら決定することが求められます」
平賀「工事費については、住宅金融支援機構が提供している『マンションライフサイクルシミュレーション』が参考になるでしょう。住宅金融支援機構が取り扱うリフォーム融資の工事費データをもとに、個々のマンションに合わせて補正・平均した金額を見られるため、工事費の妥当性を判断できます」
「マンションライフサイクルシミュレーション」の詳細 >>
(※1)令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査
大規模修繕工事の発注方式にも違いがある
大規模修繕工事は、規模や内容によりますが莫大な費用がかかるケースが多いものです。どうしても工事費の安さを追求しがちですが、平賀さんは「安さばかりを追求するのは危険」と話されます。
平賀「大規模修繕工事の発注方式は、大きく分けると一括発注と分離発注になります(上表参照)。一括発注は一社にすべて任せられるため管理組合の手間が軽減しますが、外部チェックが期待できないため割高なコストを提示される恐れと、価格の透明性に不安が残ります。分離発注は相互の監視機能が働くため、施工品質を維持しながらコストの削減が期待でます。しかしその分、設計監理料(コンサルタント料)が必要になります。
マンション居住者が、手間や負担の少なさ、工事費、施工品質など、何を優先するかにより最適解は異なります。ただ、工事費の安さばかりを追求し、結果として手抜き同然の修繕工事をされては元も子もないので、コストを意識しながら最適な方式を選ぶ必要があります」
大規模修繕工事の資金は?
大規模修繕の工事費は、長期修繕計画に基づいて徴収した修繕積立金でまかなうのが大原則です。しかし、国土交通省の調査(※2)によると、分譲マンションの34.8%で工事計画に対し修繕積立金が不足している実態が明らかなりました。
平賀「前回の記事でも触れたように、近年は、長期修繕計画作成時より建設工事費が上昇したため修繕工事費も高騰し、修繕積立金が不足しているといった傾向も見られます。
大規模修繕工事の資金調達法は、修繕積立金を用いるか、借り入れるかの2つです。修繕積立金が足りない場合は借り入れることになりますが、マンションの管理組合は任意団体という位置づけがほとんどであり、管理組合への融資に取り組む銀行は多くありません。
そんな中、ノンバンクや住宅金融支援機構が、管理組合向けの融資に取り組んでいます。住宅金融支援機構では『マンション共用部分リフォーム融資』を提供しており、積立金不足の管理組合にとって強い味方となっています」
(※2)平成30年度マンション総合調査
住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」とは?
「マンション共用部分リフォーム融資」は、管理組合が実施する共用部分のリフォーム工事や、耐震改修などの工事費用が対象の融資です。担保が不要なうえ、全期間固定金利のため返済計画が立てやすいため、管理組合の合意形成がしやすいメリットがあります。
平賀「マンション共用部分リフォーム融資は、耐震改修工事や浸水対策工事を行う場合、年0.2%の金利引き下げが受けられます。
浸水対策工事についてはおそらく、2019年10月の台風19号で、タワーマンション数棟が浸水被害に遭ったことが関係しているのでしょう。そのマンションは浸水により停電し、数日間、エレベーターもトイレも使えなくなりました。
同じ境遇に合わないためには事前の備えが必要です。備えのために借り入れて行う工事は先行投資といえ、決して無駄ではありません。生命と財産を守る工事に、マンション共用部分リフォーム融資を上手に活用してください」
なお、耐震改修工事と浸水対策工事のほか、後述する【マンションすまい・る債】を積立てている場合、さらに2022年10月以降は省エネルギー対策工事を行う場合や「マンション管理計画認定制度」を取得している場合も、融資金利が引き下げられます。
「マンション共用部分リフォーム融資」の詳細 >>
計画的な大規模修繕工事をサポートするツールとは?
住宅金融支援機構では「マンション共用部リフォーム融資」のほかに、【マンションすまい・る債】や「マンションライフサイクルシミュレーション」で計画的な大規模修繕工事の実施をサポートしています。
【マンションすまい・る債】は、修繕積立金の計画的な積み立てをサポートします。住宅金融支援機構が国の認可を受けて、マンション管理組合向けに発行している利付10年債で、定期的な利息の支払や、マンション共用部分リフォーム融資の金利が年0.2%引下げられるなどの特典があります。
【マンションすまい・る債】の詳細 >>
「マンションライフサイクルシミュレーション」は、マンションの修繕工事の費用やタイミングを、ウェブサイト上でシミュレーションできるサービスです。平均的な大規模修繕工事費や、今後40年間の修繕積立金の過不足の試算が無料で行えます。
「マンションライフサイクルシミュレーション」の詳細 >>
適切な大規模修繕工事がマンションの住み心地や価値を高める
分譲マンションの資産価値を保ち、長く快適に住むためには、適切な大規模修繕工事は必須です。住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」などの商品・サービスを賢く活用して、効率的かつ効果的な大規模修繕工事と維持・管理を目指しましょう。
平賀「何千万円もかけて手に入れたマイホームであるにもかかわらず、建物の保守や修繕に関しては無知・無関心なのが現状ではないでしょうか。適時・適切な修繕工事はマンションの資産価値を向上させ、快適なマンションライフを実現します。その実施主体となるのが管理組合であり、マンションの居住者です。管理会社任せにせず、まずは関心を持つところから始めてみてください!」