パリの中に見えてきた「子供」というキーワード
ガイド:本の中では、かわいい子供達の様子がたくさん登場していますね。パリの子供達の印象ってどうですか?
にむらさん:
しっかりしているので、びっくり。子供のほうがしっかりしているかも!アラブのことわざで、「子供が家に幸福を運んで来る」というのがありますが、今のパリは、まさに、それです。私も子供になりたいです。
ガイド:
この本を書かれたきっかけを教えてください。
にむらさん:
長い間パリに住んでいて、パリの新しいもの・新しいコトを探して取材することが私の仕事でした。『パリを遊びつくせ!』という本を2000年に書いたのですが、この本からも分かるとおり、パリのカルチャーって、結構マニアなんです。マニアならパリは楽しい街なのですが、友達や取材陣が日本から来ても、美術館とか、3つ星レストランとか、いつもお決まりのコースになっちゃう。「なにか日本人女性を引きつけるような要素がパリにはないか」と、いつも探していました。
2002年、突然「子供」というキーワードがパリの中に見えてきました。きっかけは、ナタリー・レテの描くイラストだったと思います。近所の雑貨屋さんに、ナタリーの作ったTシャツを見つけ、子供もいないのに思わず何枚も買ってしまいました。子供と大人の要素がミックスされた新しく、しかもパリっぽい要素がナタリーのつくる雑貨の中にありました。
そのあとに、子供雑誌の創刊ラッシュ、ブティックのオープンラッシュがありました。周囲を見たら、アメリカやイギリスからの母子旅行者もたくさんいることに気づきました。
「子供」というキーワードがいかに若いパリジャンたちの間で知らない間に重要になっていたかということを伝えねば!と思い、企画書を書いた次第です。
センスのいいママン・クリエーターたち
ガイド:執筆中に苦労したことなどは、ありましたか?裏話などもあれば教えてください。
にむらさん:
苦労よりも、楽しいことの方が多かったですね。様々な発見がありました。
この本をつうじて、ナタリー・レテ一家と友達になれたことも収穫ですね。ナタリーの旦那さんは、素敵な画家。娘さんと息子さんは子供モデルもやってる、とっても心のやさしい子たちなんです。絵に書いたような、理想の家族なんですよ。
ガイド:
他の国や街にはない、子連れで行くパリの魅力はなんですか?
にむらさん:ママン・クリエーターたちの才能とセンスにあふれる商品があること。やっぱりパリだけあって、センスのいいお母さんクリエーターが多い。色の使い方、エスニック要素の取り入れ方、ちょっとレトロな感じをとりいれてみたり、見ているだけでも幸せにさせてくれるイラスト、服、グッズを作っているママン・パリジェンヌは素敵です。
子連れの旅は、テーマを決める
ガイド:
短期間の旅行でもパリのこんなところに注目すると楽しめる、というようなアイデアがあれば教えてください。
にむらさん:
旅のテーマを決める。子供と一緒に写生会・イラストを描く。子供と一緒に旅日記をホテルでつける。メトロのチケットなどの紙屑をとっておいてコラージュするなどでしょうか。ナタリー親子も必ず旅先でやっています。
ガイド:
パリに子供と一緒に旅行する時の注意点や、パリ観光する日本人の親子のここがだめ!と感じている点はありますか?
にむらさん:
実は私自身、子供がいないんです。なので、あまり注意していませんでした。ひとつだけ気づいたことは、やっぱりお母さんのショッピング一辺倒はよくないです。何かを買ってあげるということ=愛情、と子供に勘違いされると思います。
パリで今注目していることは・・・
ガイド:
にむらさんご自身が今、パリで注目しているものはありますか?
にむらさん:
ずばり、エスニック文化でしょう。パリを面白くさせているのは、異邦人たち。外国人が持ってくる文化や新しい知識、音楽などなどがパリを多文化ミックス・モザイックな、お洒落で楽しい街にしているんです。80年代にやってきた大きなエスニックの波が、また来ていると思います。
にむらさんご自身のことも聞かせてください
ガイド:
ところで、パリ以外でにむらさんが好きな旅行先はどこですか?
にむらさん:
今は、モロッコとポルトガル中毒です。
モロッコには日本人にもつうじる素敵な生活習慣と思想が根付いている国です。大正時代のアナーキスト石川三四郎も絶賛しています。この国にはアフリカ風ロハスがあると思います。
ポルトガルは、訪れるたびに「疎遠にしていた旧友にあって、急に懐かしくて甘い思い出が甦ってきた」ような錯角を覚えちゃう国です。世界に8国あるポルトガル語圏の中、アジアで最大のポルチュギーズ・スピーカーが住んでいる国は日本。30万人以上のポルトガル語を母国語とする日系ブラジル人がいます。もっと、日本はポルトガル文化に親しんでもいいのではないかとつくづく思います。
ガイド:
今回ちょっとビックリしたのが、にむらさんはお子さんがいらっしゃらないんですよね。「子連れ」目線がすばらしい本だったので、ちょっと驚きました。
にむらさん:
実は、私も、結婚はもう半ば以上諦めています。でも、子供はあきらめていません!これは、男性には味わうことができない幸せです。数年後には、日本にも素敵な負け犬シングル・マザーがたくさん出現することでしょう。愛情たっぷりの負け犬シングルマザーになって、ディープな旅を続ける。これが私の夢です。
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「Avec ma Maman 子どもと行くパリの旅案内」が、ただのガイドブックではなく、読んでいるうちに引きこまれていくのは、パリという街、、そしてそこに住むママたちのセンスの良さとたくましさを、日本のスタイルに媚びない、パリらしいスタイルでにむらさんが伝えてくださっているところにあるのだと感じました。
にむらじゅんこ
執筆・翻訳業。
パリ第四大学の美術史学科に学んだ後、パリで雑誌「ぽぽころー」の他、レコードショップ、レーベルをたちあげる。その後、編集者からライターに移行し、フランスと日本で活躍。現在は「ソトコト」欧州特派員として、上海を拠点にパリ、日本、その他欧州や他国にも渡り幅広く活躍している。
著書に「パリを遊びつくせ」(原書房)、「ネコ式フランス語」(三修社)、「フランス語で綴るグリーティングカード」(三修社)、「美味しいフランス語」(三修社)など。