非習慣的な感覚による一種の“気づき”
そこで実際に、うちのアッシュとハービーにTタッチとドッグマッサージの両方をやって見せていただきました。ふたりとも、かつてアロマテラピーや鍼をやってもらった時のようにウットリ! 13歳になるアッシュなどは、もう瞼が上がりませんという恍惚状態です。いっぽうワンワン小僧のハービーの方は、なんだこれ?という表情ながらも身体をあずけておくつろぎのポーズ。ふたりとも、かつてない幸せなひとときを過ごさせていただきました。
「ハービーちゃんの方が心がややざわついている感じかな。頑張っている感じが皮膚に出ています。だからまわりで何か変化があったらすぐ行動に出たり、口が先に出たりする。そんな時、Tタッチの考え方では、身体に意識させるために様々な触り方や方法を使います。
「私はそれを“理性の器を深くする”という言葉で表現していますが、ようは様々な刺激があっても理性を保てる子にして、安定させてあげるというわけですね」(松江さん)
アッシュは高齢ゆえか腎機能が弱っているものの、理性の器はやや広いとのこと。ちょっと触っただけでそんなことまでわかるなんて、ほんとに驚きですよね!
写真提供:ドッグリレーション松江さんによれば、Tタッチにはグランドワークと呼ばれるタッチとは違った方法もあるそうで、こちらは障害物のあるところをリードをゆるくした状態で合図を送りながら歩かせる手法なのですが、それも理性の器を大きくするには有効だとのこと。Tタッチがたんに手技だけではなく、考え方そのものであることがわかります。
「ずっと足を引きずっていた犬が、グランドワークで足を意識するようになると、とたんに歩けるようになることがあります。これは、非習慣的な感覚や動きを与えることによる一種の“気づき”効果をねらったもので、引きずっている足にバンテージを巻いてあげるだけで効果が出ることもある。なので、いまアメリカではTタッチを術後のリハビリや歩けなくなったシニア犬のケアに活用しようという動きも出てきています」(松江さん)
う~ん、なるほど! なかなか深いものがあります。
ストレスを溜めやすい日本の犬と飼い主
写真提供:ドッグリレーション
いっぽうマッサージはというと、こちらはスポーツマッサージに近いもので、運動によって疲れた筋肉をほぐすためにやるケースが多いとのこと。しかしながら、アメリカのような広大な敷地を自由に走り回っている大型犬は日本には少ないため、どちらかといえばTタッチの方が需要が多いそうです。
「とくに都会の犬は運動不足で、マッサージをやってあげようにも筋肉が少ない子が多い。それよりは、精神的なストレスや心に傷を負った臆病な子や神経質な子が多いので、Tタッチから始める方が主ですね」(松江さん)
「みなさん、一生懸命すぎるんじゃないでしょうか。たとえばしつけでもこうしなきゃいけないとか、犬を飼ったらドッグカフェに連れて行かなきゃいけないとか…。けっしてそんなことはないし、自分とその子のペースに合わせてもっとゆっくり、生活に不便のない程度に、何よりも犬と暮らすことで得られるたくさんの幸せを満喫することが大切だと思うんです。
そうすることで、Tタッチにしてもマッサージにしても、効果が抜群に上がる。飼い主さんが落ち着いてじっくりやり始めたら、犬もリラックスしてそれを受け入れ始めたということがよくあります」(松江さん)
皮膚のトラブルにしても、飼い主が神経質になりすぎてなかなか治らないケースも多いような気がすると松江さん。たしか、皮膚専門の獣医さんも、そんな話をされてましたっけ…。
トレーニングにも役立つTタッチの本質に迫ります!