そしてもう一冊のおすすめは、谷口ジローの『犬を飼う』です。こちらは、デザイナーを営む若夫婦が雑種の老犬タムを看取るまでを描いた回想記。
★『犬を飼う』 谷口ジロー(小学館)¥825- |
14歳になったタムは、だんだん足腰が弱り、歩くのもやっと。日を追うごとに排泄もままならなくなります。体重ごと吊り上げるリードに代え、痛む前足に手づくりの靴を履かせてタムを散歩に出す夫婦はしだいに疲れ、身も心もへとへとになっていきます。だけどなかなかタムは頑張って生きようとします。そんなタムを見て近所のおばあちゃんが言います。
「おまえ…いつまで生きてるつもりなんだろねえ。早く死んであげなきゃだめじゃないかね。でもね、なかなかね…死ねないもんだよ」
寝たきりになり、床ずれが痛くて夜泣きをするようになったタムを見て、夫は思います。なぜ、こんなにがんばるんだ、タム? そのころにはもう夫も妻も、「死」というもの、「生」というものに対して、ある種の畏敬の念を抱くようになっていくわけです。
ちょっと悲しいお話なのですが、これから私たちが直面しなくてはならない現実を、きびしい目で見つめていて、考えさせられる一冊でした。漫画とはいえ、谷口ジローさんのストーリーはまるでイラストのついたエッセイのよう。読み終えて自分のワンコの寝姿を見ると、あらためて「ああ、この子といてしあわせだ!」と実感できる本ですよ。