幸い育美さんは、夫を嫌いになったわけではない、と言うので、私は何とか修復の方向に向かうよう努力すべきだということを伝えました。そのためにまず、夫の良いところと悪いところをリストアップしてもらい、良いところを最大限にほめて感謝し、悪いところを直してもらいたいとお願いする手紙を書くように勧めたのです。
するとなんと、良いところは「ハンサム」だの「センスがいい」だの「優しい」だのいくつも上がるのに、悪いところには「帰りが遅い」としか書いていないのです。それでいて「離婚したほうがいいのでしょうか」なんて深刻そうに言うんですから、思わず笑ってしまいました。
「あなたたちには何の問題もないじゃない。結婚準備に追われてて、ホッとしたとたん、疲れが出ただけじゃないの。」そう言うと、育美さんははじめて笑顔を浮かべ、それはとてもチャーミングでした。「結婚生活は何十年も続くのよ。あんまり一つのことに熱中しちゃダメ。あなたも趣味を持つとかして、もう少し自分に目を向けてみたら?」
その後、育美さんは輸入雑貨のお店でアルバイトを始めたそうです。おかげで生活にも張りが出て、夫ともうまくいっているとか。そして今年の年賀状には、もうすぐ赤ちゃんが産まれるといううれしいニュースも書いてあり、私は返事に「おめでとう。何度も言うようだけど、あまり熱中しすぎないでね」と書いて送りました。
★独身女性に仕掛けられた甘い罠
さて、育美さんのケースを通して私が感じたのは、一般の人たちがいかにマスコミから悪い影響を受けているか、ということです。各種のブライダル産業が派手に宣伝を仕掛けるのは、ビジネスだから仕方がないとしても、普段の社会人が芸能人と同じ感覚で、結婚や離婚を考えているというのは異常なことと言わざるを得ません。
アーティスト(そうでない人もたくさんいますが)であればこそ、スキャンダルも“芸の肥やし”となるかもしれませんが、一般の人にとって安易な結婚や離婚に、いいことなど一つもないと言って差し支えないでしょう。
そういえば、前に取り上げた恵里さんは、自分の結婚についての後悔をこんな風に言っていました。「働きに出たいとか、たまには飲みに行きたいとか、そういうことが問題じゃないんです。結婚していなければ、私だって今頃、仕事で認められていたかもしれない、もっといい男がいたかもしれないって考えると悔しくて。」
しかし、そんなことは幻想でしかありません。ドラマや小説は、それがどんなにうまく描けていたとしても、現実とは異なるのです。おそらく彼女も結婚というものをちゃんと考えられないままに結婚してしまった女性の一人なのでしょう。
世間から向けられる「適齢期」という目と、マスコミが作り出す「結婚への甘い幻想」。これらは、結婚前の女性たちに仕掛けられた巧妙な罠です。そして、それをかいくぐった女性だけが本当の意味での大人の女になれるのかもしれません。
★関連サイト
自分らしさ(アイデンティティ)をどう保つ? 結婚 使用前、使用後-【1】
自分らしさ(アイデンティティ)をどう保つ? 結婚 使用前、使用後-【2】
なぜ理想通りいかないの? 結婚の理想と現実
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