自分を見つめなおした夫と再出発した小百合さん(47歳)
単身赴任を終えた夫との生活にすっかり嫌気がさしたといって、小百合さん(仮名)は私の元を訪れました。二人の間には子供が三人。夫の雅彦さん(仮名)は一番下の子が小学校二年生のときに単身赴任しました。以来五年間、家族が顔を合わせるのは月に二、三回ほどという生活を送ってきたのです。
「ようやく子供の手が離れてこれからの自分の人生を考える余裕ができてきました。今さら夫に戻ってこられても、という気持ちが正直なところです。だいたい、この五年間はまるで母子家庭状態。たまに家に帰ってきても、寝てばかりで家族でどこかへ出かけた事もありません。夫婦の間で会話もしたことはありませんでした」
皮肉なことに、雅彦さんが戻ってきたのは一種のリストラであり、今までの忙しさが嘘のように帰宅時間も早いのだそうです。小百合さんは今までの自分や子供たちに合わせて送っていた生活ペースを乱され、すっかりストレスがたまっていました。いわゆる“主人在宅ストレス症候群”です。雅彦さんも雅彦さんで、今まで会社に尽くしてきた苦労が報われず、そのイライラを小百合さんや子供たちにぶつけます。私の元を訪れた小百合さんは「今すぐにでも離婚したい」とまで思いつめていました。
「気持ちはわかるけど、今まであなたとお子さんたちが平穏に暮らせたのはご主人が働いてくれたおかげなんですよ。あなたは母子家庭状態だというけれど、本物の母子家庭はそんなに甘いものじゃないわ。たとえ離婚するにしても、もっとご主人と話をするべきだし、もっと準備をすべきだと思うの」
そこで次に夫とのカウンセリングを行いました。私から小百合さんの気持ちを聞いた雅彦さんは見ていて気の毒なほどに意気消沈。「妻にしてやれることが離婚しかないんなら、そうするしかしかたありません。私は誰からも必要とされない人間ですから」などと自嘲気味に語るだけです。私は小百合さんよりもむしろ雅彦さんのほうが心配になり、懇意にしているサイコセラピストにつなぎました。そしてそこから精神科医を紹介され、その結果、雅彦さんはうつ病と診断されました。おそらく、仕事上のストレスも相当なものだったのでしょう。物事に前向きに取り組む姿勢をすっかり失っていたのです。