主婦のキッチンドランカー化 死亡率との関係
ガイド(二松):最近、主婦のアルコール依存症も出てきていると思いますが、事例をいくつか教えてください キッチンドランカーという言葉の意味も教えてください 一般の家庭にもアルコール依存症は増加していますか?
Dr.最上:
世界の先進国では、どこでもアルコール総消費量の減少が認められるのにも関わらず、日本だけがアルコールの消費量が増加傾向という事実がよく国際的には問題にされています。
かつてアルコールの問題というと、どうしてもブルーワーカーの方々の問題というイメージが強かったのですが、どうも時代はそうでもなくなってきているのです。
たしかに、60年代はいわゆるブルーワーカーと呼ばれるような肉体労働者に顕著だったのですが、70年台に入りホワイトカラーに広がり、80年代は主婦やOL、90年代は中高生のような青少年層への問題飲酒の広がりという困った実情があるのですね。
最近は、ワインや焼酎ブームなどのように、女性の間にも飲酒がおしゃれで飲みやすいイメージが広がってきており、さらに、女性の社会進出とともに「付き合い酒」も増え、昔の酒屋と違って女性が気軽にお酒を買えるコンビニやおしゃれなワイン専門店などの登場が、女性のお酒の問題増加に拍車をかけているということも指摘されだしています。
「おしゃれな雰囲気のお店で夢の世界にトリップ」photo by 白坂桂輔 |
主婦のアルコール問題の増加としては、核家族化で育児や教育など家庭の問題を夫婦だけで行わなければならない状況において、従来の「家庭を守るのは主婦の仕事」と、一人で問題を抱え込みすぎパンクして、そのストレスのはけ口を、こっそり昼間から台所でアルコールを飲みだして、いつの間にかアルコール問題が出現してしまう「キッチン・ドリンカー」という言葉も知られています。
また、この頃は、子育てを終えた主婦が、ぽっかりとココロに穴が開いたような、「空の巣症候群」に伴う例も多いと報告されてきています。
ガイド(二松):
アルコール依存症になった場合、懸念されることはなんですか?
Dr.最上:
まず、酒は百薬の長などとも言われているのですが、全体から見ると決してアルコールは体にいいとは言えないという事実は知っておいてもよいかもしれません。
少量のアルコールが体にいいという根拠としては1日量としてはビールなら500cc、ワインならグラス1杯、日本酒なら1合程度は適性飲酒などと言って心筋梗塞などの死亡率を下げることでお酒を飲まない人よりやや減少することがわかっているのです。
これも、それ以上の量を毎日飲めば飲むほど死亡率はどんどんあがっていくことがわかっています。
さらに、それ以外の病気では、多彩な疾患が心臓病と違ってアルコールの量が増えれば増えるほど、死亡率はどんどんあがっているということはあまり知られていないのですね。それは適性飲酒量でもです。
例えば、アルコールには発癌性もありますし、一部の心臓疾患の例外を除いて、全身の多くの病気を悪くするわけですから、その歯止めが効かなくなるアルコール依存症では文字通り全身ボロボロになる危険性さえあるのです。女性に関して言えば、妊娠中お酒を飲んではいけないことはすでに常識だと思うのですが。それでも我が国の18%の妊婦さんが、妊娠中のアルコール摂取をしていたと報告されています。
アルコールはお母さんから胎盤を通じて、胎児の血液に流れていきます。胎児はアルコールの代謝がまだ未発達ですから、お母さん以上にアルコールの影響を受けやすいわけですね。お母さんが少しぐらいと飲んだつもりでも、赤ちゃんにしてみれば「飲めない体質のに無理やり一気させられている」のと同じですから、いかにおそろしいことかは想像つくと思います。
最近は、妊娠中のお母さんのアルコール摂取は、児性アルコール症候群(FAS)といった脳の発達障害をはじめとする深刻な影響が報告されてきています。
どれくらい飲めば安全という基準もわかっていませんから、妊娠期間を通じてアルコールはぜったいに控えるようにしたいものですよね。
また、母乳にもアルコールは含まれますから、授乳期の飲酒も赤ちゃんに飲酒させることになってしまいますから、やはり飲酒をやめることをおすすめします。
ガイド(二松):
さて、子育てにアルコール依存症の母親はやはりマイナスですよね?
Dr.最上:
アルコール依存症は、自身の問題だけでなく、夫婦関係、親子関係といった家族機能を破壊します。飲酒問題を抱えた家庭で育った子供たちの中には、大人になってからも様々なココロの問題を抱えることが多いために、それらをアダルトチルドレンと呼ばれているのは有名ですよね。
また、「アルコール依存症の家庭で育った子供は、アルコールの問題をやはり将来抱える……」という世代間連鎖という言葉も存在します。
そもそもアルコール依存症の人というのは、単なる酒好きが飲みすぎてなるのではなく、元々、現実逃避的な性格の人が、アルコールという手段によってより問題を根深いものにさせているということがわかってきています。そういった意味でもアルコールの問題というのは、単なるアルコールをコントロールできないだけでは決してなく、様々な問題が関与した非常に複雑な病態であることも認められるようになってきています。