夏空のもと、ワンマン列車は走る
郡山10:08→11:02福島
再びロングシートのワンマン列車(郡山) |
しかし、福島行の列車は、たった2両の編成だった。オールロングシート車両で、これはいよいよ座れないなと思ったが、運転席近くの端っこの席がなぜか空いていたのでそこへ座った。
乗客は結構多いのに、ワンマン列車である。路線バス同様、整理券発行機や運賃箱が設置されている。車掌がいないから、扉の開閉や料金の収受、接客全般も運転士の仕事だ。それでいてもちろん安全な定時運行も求められるのだから、運転士の負担は相当なものだろう。労使の関係が悪かった国鉄時代には考えられなかったシステムだ。
五百川という無人駅で、出張のビジネスマンらしき集団が下車した。まとまった下車客があると、なかなか発車できない。開け放されたドアから、草むした匂いが風にのって車内へ流れ込んでくる。
二本松から乗ってきた2人の孫を連れたおじいさんに向かって、その隣に座っている男がしきりに話しかけている。向かいの席にいる私にもはっきり聞こえる声で、愛知の蒲郡から来た、仙台から仙山線で山寺へ行く、花火大会があるからそれまでに帰らなければならない、などといったことを勝手にしゃべりまくっている。
普通ならうんざりしてしまうところだが、人のよさそうなそのおじいさんは、男の話にいちいち相づちをうち、まるで友人に接するかのごとく丁寧に応対していた。孫2人は、珍しそうにその男を見ている。
東北本線屈指の車窓を眺め、宮城県へ
福島11:02→12:16仙台
仙台へは快速列車が運んでくれた(福島) |
福島発車後、列車は盆地を脱するべく北に向かって次第に高度を上げていく。
このあたりは日本有数の桃の産地で、果樹園が多い。桑折(こおり)駅から貝田駅にかけては、果樹園の向こうに福島盆地を見下ろす眺めのよい区間だ。変化に乏しい東北本線の車窓風景にあって、この眺めは格別だと思う。
福島盆地を遠望する東北本線屈指の車窓(藤田~貝田間) |
貝田駅の先で宮城県に入った。地図を見なくても、水田の中にポツンとたたずむ「白松がモナカ」の広告塔が、そのことを教えてくれる。ただ、郡山の駅名標には「萩の月」の広告がすでに付いていたが。
蔵王連峰を遠望しながら走る(白石付近) |
白石川の河畔にある東白石駅は、ぜひ一度降りてみたいと思わせる駅だったが、シティラビットは一瞬で通過した。
槻木(つきのき)駅で阿武隈急行、岩沼駅で常磐線、名取駅で仙台空港鉄道と次々に合流する。最後に左から東北新幹線の高架が近付いてくるとこちらもその隣の高架に上がり、街並みを見下ろしながら仙台へ到着した。
仙台という大都会で心が折れる……?
東北地方の中心都市、仙台に到着 |
仙台は人口100万人を擁する大都市だ。街行く若者の服装も、それなりにあか抜けている。駅前広場にずらりと並んだタクシーの横を、選挙カーが大音量で候補者の名を叫びながら通り過ぎる。真夏の陽射しが、デッキのタイルに反射して眩しい。
そんな街の様子を眺めていたら、なんだか急に出歩くのが億劫になってしまった。
カートを引きずりながら駅ビルに戻った。飲食店を選ぶのも面倒になり、結局、どこにでもあるファーストフード店へ入った。ちょうど昼時だから混んでいた。
普段暮らしている東京はとにかく疲れるところだ。あんな都会からは一刻も早く離れなければならないと思っているのに、旅先で都会に来ると、妙に安心してしまうのは何故だろうか。所詮、都会に育った人間は、都会でしか暮らせないのか。
疲れた。もう列車の乗り継ぎなどどうでもよくなってきた。下手に休憩などせず、一気に突っ走ったほうがよかったのかもしれなかった。
【 後編へつづく 】
※後編はこちら
■上野~札幌1,100km鈍行急行乗継ぎ旅・後編
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石川啄木「一握の砂」(青空文庫)
望郷の詩人、石川啄木の代表作。全文が読める。
白松がモナカ本舗
「萩の月」と並び仙台を代表する和菓子「白松がモナカ」の製造販売元。