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闇サイトを利用した犯罪の抑止とおとり捜査(2ページ目)

最近、闇サイトを利用した犯罪が増加しています。サイトを通じて知り合った自殺志願者を殺害したり、サイトを通じて知り合った者同士が凶悪犯罪を実行したりしています。今回は、予防策について考えてみました。

酒井 将

執筆者:酒井 将

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犯罪を勧誘した相手が捜査員かもしれないなら、闇サイトでの犯罪の勧誘は激減することでしょう。

闇サイトの運営者を罪に問うことは難しい

闇サイトで出会った者同士が殺人や強盗を犯したというケースで考えてみましょう。この場合、殺人や強盗をした犯人たち自身が、その罪で処罰されるのはもちろんですが、出会いの場を提供した闇サイトの運営者をなんらかの罪に問うことはできないのでしょうか。

答えは、否です。というのも、闇サイトの運営者は、殺人や強盗の具体的な書き込み内容を認識していないからです。犯行計画を知らなければ、共犯に問うことはできません。しかし、逆に言えば、殺人や強盗の具体的計画を認識し、書き込みを削除することができたにもかかわらず、運営者がそれをあえて放置した結果、犯罪が実行されてしまったような場合には、運営者は、犯罪の実行を容易にしたといえるので、共犯に問いうる場合もあり得るでしょう。

書き込みした者を摘発できないのか?

では、違法な書き込みがなされた段階で、書き込みをした人間を検挙するなど、なんらかの対処はできないのでしょうか?たとえば、殺人を勧誘する書き込みをした場合です。結論から言うと、この時点で書き込みをした人間を検挙することはできません。殺人予備罪という犯罪がありますが、殺人を勧誘する書き込みをしただけでは、殺人予備罪には該当しないからです。では、殺人が実行に移されるまで、指をくわえて見過ごすしかないのでしょうか?もちろん、警察がこういった闇サイトを監視し、違法な書き込みがなされた場合には、直ちに闇サイトの運営者に削除を要請し、犯罪が行われないように予防するべきでしょう。しかし、それ以上は何もできないのでしょうか。

おとり捜査を積極的に行なうべきでは?

私はいわゆる「おとり捜査」という手法を積極的に取り入れるべきだと考えます。「おとり捜査」とは、捜査員や捜査協力者が対象者に対し、その身分や目的を隠して、犯罪を実行するように働きかけ、対象者が犯罪を実行したところで、これを現行犯逮捕する捜査手法をいいます。この「おとり捜査」という捜査手法、本来犯罪を阻止すべき国家が自ら犯罪を作り出し、また、自ら作り出した犯罪を訴追することとなるため、そもそも違法なのではないか、という議論がありました。しかし、平成16年7月12日、最高裁判所は「通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難な場合に、機会があれば犯罪を行なう意思があると疑われるものを対象に」行なう場合には、おとり捜査は許されるという判断を下しました。

捜査員の側が積極的に対象者に犯罪の実行をそそのかし、犯意を誘発させたような場合(犯意誘発型)には、さすがに許されない捜査方法ですけれども、もともと犯罪を実行しようとする意思を有する者に対し、犯罪の機会を提供したという程度(機会提供型)であれば、犯罪予防の観点から見ておとり捜査をする必要性が高い事案に限り、積極的に行なってしかるべきだと思います。

冒頭の例で言えば、殺人や強盗の勧誘を書き込んだ対象者に対し、捜査員がこれに呼応する書き込みをし、対象者が殺人や強盗の具体的な準備に及んだ時点で、捜査員が対象者を殺人予備罪や強盗予備罪で逮捕すれば良いでしょう。書き込みに応じる人間が捜査員かもしれないと思えば、逮捕されるリスクを背負ってまで犯罪を助長する書き込みをする者は確実に減るはずです。闇サイトを利用した凶悪犯罪が多発している現状に鑑みれば、これらの犯罪を一刻も早く抑止するため、おとり捜査を積極的に利用するべきだと思うのです。
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