すべては尾行から始まる…
会社帰りにコンビニによった後、夜道を歩く若い女性。人通りも少なく車もめったに通らない住宅街。街路灯が夜の闇を際だたせている。だいたいいつも携帯電話で話しながら歩くのが習慣になっている。うつむき加減に声高に携帯電話で話しながら歩く。その後ろから、目立たない服装のスニーカーを履いた男が、一定の距離を保ちながら歩いてくることに気がつかない…。「あ、アパートに着いたよ。うん。じゃ、またね。おやすみー」
2階建てのアパートが見えてきたところで彼女は電話を切る。後ろを振り返ることもなく、建物に入り集合郵便受けを見るが、どうせいつものようにチラシがたくさん入っているだけだろう。ゴミはまとめて捨てようと、チラシを取り出すこともなくそのままにする。鍵はダイヤル式だが一々面倒なのでかけたことはない。
2階への階段を靴音を響かせて上る。バッグからチャラチャラと音を立てて鍵を取りだし、自宅のドアを開ける。窓のカーテンは朝、開けたままになっている。室内の電灯をつけてから、カーテンを閉じる。
そのころ、アパートの外の道路では男が建物を見ながら耳をすませている。女性の階段を上る足音を聞いて、2階で窓の灯りのついていない部屋を見つめる。それまで暗かった窓に灯りのついた部屋がある。右から2番目だ。今、つけてきた女性の部屋に違いない。
個人情報が盗まれる!
そのまま男は建物の中に入る。1階の右から2番目の部屋の表示を見ると102号室となっている。すると、今の女性の部屋は202号室だろう。通常、上下の部屋番号は階数が違うだけで後の番号は同じはずだからだ。しかし念のためそっと階段を上って2階の部屋番号を確認する。やはり202号室だ。集合郵便受けの所に行き、202号室の郵便受けを見ると名字だけが書かれている。手をかけると簡単に扉が開く。チラシが溜まっているが、いったんすべてを取りだしてみると、下の方にチラシにかくれて携帯電話料金の領収・請求書が入っている。(ラッキー)!
その封筒だけを取りだしてチラシは戻す。宛名は女性の名前だ。フルネームがわかる。銀行口座振替になっているので払い込み用紙がついているわけではない。男はそのまま封筒をジャケットの内ポケットにしまう。(関連ガイド記事「他人の手紙を開封すると…」)
コンビニで一人分の総菜などを買っていた女性が気になって後をつけたが、苦もなく女性の自宅をつきとめ、フルネームと携帯電話番号を簡単に入手できてしまう。あまりにもあっけなく女性の個人情報がわかってしまうので、拍子抜けするくらいだ。まずは電話をかけてみるか。
無言電話
男は電話料金の領収・請求書を開けてそこにある電話番号に、非通知にしてダイヤルしてみる。「ハイ、もしもし?」
明るい女性の声。(先ほどの女性の声だ…)男はじっと黙っている。
「もしもし? もしもーし」
相手が声を出さないので、女性は電話を切る。