
相続や子どもの問題やらで、結婚はしなくてもいいが「好きな人と一緒に住む」夢はかなえたい。そう思う熟年層も多くなっている。「一人で老後を過ごすのはあまりにも虚しい」というのが本音のようだ。
一人暮らしは寂しくてたまらなかった
「8年前に夫に死なれ、一人息子はすでに独立していたので、一人暮らしになりました。一人暮らしは初めてだったし、寂しくて虚しくてたまらなかった」
サトコさん(68歳)はそう言ってうつむいた。だが近所の人に誘われて地域の社会活動やサークルに参加するうち、少しずつ元気を取り戻していったという。
「あるときそういう社会活動のセミナーみたいなものが私の住んでいる市で開催されたので参加したんです。そこで知りあったのが4歳年上のケイイチさんでした。会場内で迷ってしまった私に声をかけてくれて。それをきっかけにいろいろ話して連絡先を交換して、数日後に会うことになったんです」
久しぶりのデートだった。彼は車で迎えに来てくれ、市内のおしゃれなカフェでデート。時間がたつのも忘れて話し込み、夕飯も彼のお勧めの店へ行った。
「彼は30年前に妻に出て行かれ、当時、中学生と小学生の二人の子を、仕事をしながら必死に育てたそうです。子どもたちは独立し、孫を連れて年に1、2度戻ってくる。日常は一人きりで、自由でいいけど寂しいと言っていました。私も同じ気持ちよと話して」
二人はすっかり意気投合、サトコさんが時々ケイイチさんの家に泊まるようになり、その頻度が増えて、「ここで一緒に住まないか」ということになった。
互いに夢を追い過ぎた
「互いに子どももいるし、子どもたちの了解を得るのも面倒。一緒に住んで、先のことはまた改めて話し合おうと。私は家を処分せず、週に1度くらい自宅に戻るようにしました」
楽しい日々だった。二人で買い物に行き、二人で食事を作って食べる。何もしなかった夫と一緒にいるより、話も弾むし、何よりケイイチさんは「サトコちゃんが大好きだ」とストレートに愛情表現をしてくれる。
「恋していたんですよね。だけど2年ほどたったころ、『もう少し生活費を出してくれないか』と彼が言うようになった。私は一人暮らしをしているときより出費が多いなと思っていたのに。聞いてみたら彼の年金はとても少ない。なけなしの貯金を崩しているというんです。結婚もしていないのにお金の話はしづらかったし、生活費としてとってあるお金が足りなくなると私は自分の財布から食費を出していました」
同居にあたってそのあたりの話をきちんとしていなかったのは失敗だった。相手の年金額もそれとなく聞いておけばよかったとサトコさんは後悔した。
「結局、それがもとでなんとなくギクシャクしてしまって……。ある日私が『自宅に戻ってくるわ』と言ったとき、彼がいつものように『送っていくよ』とは言ってくれなかったことで別れを悟りました」
彼もサトコさんも一人暮らしのときの方が出費を抑えられたという思いがあったのだろう。熟年の同棲は2年で幕を閉じた。
生活習慣が違い過ぎた
シニア向けのマッチングアプリで同世代の男性と知り合ったマユミさん(66歳)。30年前に離婚してから、恋愛1つせず、子ども3人を育て上げた。
「今さら恋愛なんてと思ったけど、還暦を過ぎてから孤独感に苛まれるようになって。何をしても満たされない。私のし残したことは何だろうと思ったら、誰かと理解し合って穏やかな日々を過ごすことだった。それでマッチングアプリに登録しました」
数カ月後、同じような思いを抱えている男性と出会えた。実際に会った瞬間、「この人だ」と感じた。数回のデートを経て、まずは一緒に住もうということになった。
「彼が私の家に越してくると言ったんですが、私は還暦を過ぎてから自宅を処分して小さな1LDKのマンションに越したんです。二人で住むには狭過ぎる。でも彼は『狭くてもいいよ。うちは古くて汚いから』って。とりあえず身の回りのものだけ持って越してきたんです。小さな家で二人でべったりくっついて暮らしました。最初は楽しかったんですが、二人とも一人暮らしが長くて、生活習慣ができあがっている。それがまったく合わなかったんですよ」
何もしない彼にイライラ
マユミさんは早起きして散歩、その後朝食をゆっくりとって、午後からは地域で習字やヨガを習い、図書館で子どもたちに読み聞かせのボランティアもしている。ところが彼の方は昼近くになってようやく起き、ほとんど出掛けることもない。自宅にいるときからあまり外には出なかったと聞いて、「一緒に住む前はもっと活動的に暮らしているようなことを言っていたのに」とマユミさんはイラッとした。彼女に合わせてうそをついていたようだ。
「一緒にヨガをやってみないかと誘っても乗ってこないし、朝早く起きるようにしてみたらと聞いても『無理』って。食事の支度も家事も全て私に任せて何もしない彼に、半年で愛想が尽きました」
最後は、「冷たい女だな」と捨てゼリフを残して去っていった彼、マユミさんは思わず塩を撒いたという。
「誰かと一緒に住むって、イメージで憧れていましたが、それまでのまったく別の人生や価値観をどうやってすりあわせるかという問題なんですよね。そう簡単にはいかない。一緒に住まずに外で会うような気軽な関係にしておくのが一番いいと思います」
早まった……とマユミさんは照れたように笑った。







