セックスレス相談でよく聞くのは、このフワリとした不安感です。「これでいいのかな? こんなもんなのかな?」というニュアンスを含みながら、夫婦仲相談所を運営している私にお話をされます。忙しさ、疲労、気まずさ。そして、「一度断られた記憶」。積み重なるほど、誘う側も誘われる側も、「まあ仕方ない」という感情にズンズン覆われていくような……。
一方で、レスを解消できる夫婦ももちろん多数います。そして、そこには共通点があります。劇的な出来事よりも、“ハードルの下げ方” と、 “相手のプライドを保つ術” を知っているのです。
<目次>
「仕事で枯れた」夫の本音は“できない怖さ”だった(香織さん・39歳)
香織さん(仮名)は結婚7年目。共働きですが、家事分担はうまくいっています。外から見れば円満ですが、夜の営みだけが3年ないとのこと。最初に距離ができたのは、3年前の夫の仕事の繁忙期。香織さんが軽く誘ったら、夫は「仕事のことで頭がいっぱい。今日はムリ」と拒否されました。このパターンが3回重なります。
香織さんは「女として見られてないの?」と不安になり、誘うときの口調が強くなりました。夫はさらに引いて、黙り込むように。以後は、香織さんも諦めました。
転機は年末休暇中に訪れました。2人でソファに並び、アマプラタイムを過ごしているとき。セクシーな映画シーンが流れたとき、夫の方からポツリと言葉が出ました。
「盆と正月くらいって言うけど、俺、うまくできる自信がないんだ。下半身の元気がなくなってる。失敗したらと思うと怖い」
今までの拒否は“妻にエロスを感じない”ではなく、“自分が傷つく恐怖” だったのです。
香織さんは、ここでいろいろ考えました。私が「営みの定義は2人で決めればいい」とアドバイスしたからです。2人は次のことを決めました。
- 挿入がゴールじゃなくていい
- タッチだけの日があってもいい
- 断っても責めない。代わりに代替案として“いつならOKか”を教える
さらに、夫が一人で抱えないように「健康面の確認」という名目で、夫婦でクリニックの情報を調べました。結果、夫は軽いED傾向があり、仕事の緊張と睡眠不足が原因の可能性があると分かりました。医療的な選択肢も含めて“逃げ道”ができたことで、夫の表情が緩んだといいます。
レス脱出のためには、まずは◯カ月に◯回の“安心できるスキンシップ”から。数字は2人で話し合いながら決めていきました。その中で香織さんは、「回数を増やすより、大事なのは関係を壊さないことだ」と気付きました。
「空気」を変えたのは“見えない家事”の肩代わり(哲郎さん・44歳)
哲郎さんと美咲さん(仮名)夫婦は子ども2人。次女が産まれてすぐにレスとなり、気づけば5年。夫は不満を抱えつつ、5年間も言い出せずにいましたが、このままだと愛情が薄れそうと気付き、本音を直接聞いてみました。妻の話はとてもシンプルでした。
「私が“ママとお手伝いさん”になってるから、独身時代の恋人モードになれない」
夫は「家事、頑張ってるつもり」でしたが、やっていたのは目に見える家事だけ。夕食の献立を決める、買い出し、連絡帳チェック、学校の提出物チェック、ママ友対応、おけいこ教室検索、ご近所付き合いなどなど、夫が見えないことにも妻は対応していたのです。
さらに、年末イベントや帰省やらで妻の心労がピークに達したときがありました。冬休みだからと呑気に構えた哲郎さんがスキンシップを求めた瞬間、美咲さんは爆発しました。
「それどころじゃない!」
キンキン声で叫びました。夫はようやく、危うい関係性を理解したといいます。この後、哲郎さんは「負担の移動」に取り組むようになりました。
- 1カ月、食材の買い出しを夫担当にする。保存食も備えておく
- 子どもの予定表を夫が管理し、必要な学校との連絡も行う
- 美咲さんに“オール指示出し”を求めず、分からないことは自分で調べる
数カ月後、美咲さんは余裕ができたのかキンキン声を出さずに、眉間の縦シワが薄れてきたそうです。表情があきらかにおだやかになったと。
哲郎さんは、あえて“夜”を急がず、まず「2人で散歩」「一緒に深夜ドラマを見る」「首肩をもむ」を継続しました。
そんなときに美咲さんが言ったセリフは印象的でした。
「私の望みは、営みそのものより“私と一人の人として接してくれること”だった」
結果、連休に子どもを実家に預けて小旅行へ。ホテルの非日常が“役割”を外し、自然に距離が縮まったそうです。
レス脱出の鍵は、日常生活の立て直しでした。
「名もなき家事」という言葉がSNSでスポットを浴びましたが、家事以外にも、日常の何気ないことだけれど、やらないと困ることを洗い出すと、レス改善の一手になる(こともあります)!
旅行でレス解消。でも翌月にはもとに戻る……(梨花さん・39歳)
梨花さん(仮名)は「旅行で久々に改善できたのに、家に帰るとゼロに戻った」と嘆きます。レス2年目。日常から離れるというアドバイスどおりに小旅行を計画します。温泉旅館で雰囲気がよくなり、2年ぶりにレス解消。ところが翌月からは、日常の疲れでまたレスに戻ることに。
「1回改善したのに、なんで続かないの?」と梨花さんは焦ります。ここで多くの夫婦がやりがちなのが、“成功体験”を武器に相手を追い詰めること。
「この前したじゃん」
これは相手の気持ちを無視した上からの強要。梨花さん夫婦に伝えたのは、感情論ではなくスケジュールの合意です。
- 月2回だけ「デートナイト」を作る(外出ではなく、家での食事でもOK。デートだよと意識するだけ)
- その日は「最後まで」かどうかを決めない(流れに任せる)。“チュ”だけでもOK
- 断るときは「嫌」ではなく、「体調・タイミング」を言語化する
- なくても気にしない。引きずらない。評価しない
ポイントは、一連の流れを「テスト」にしないこと。“できた・できない”より、会話と安心の回路を維持することです。梨花さん夫婦は、2カ月後には「自然に触れる回数」が増え、頻度も少しずつ戻っていきました。
レス脱出の近道は「関係性のリセットからの更新」
レスは、愛の有無だけで決まりません。仕事、育児、介護、体調、ホルモン、メンタル、過去の失敗体験など、複合的な要因で起こります。互いのことは好きだけれど、営みだけはできないという夫婦がいかに多いことか。解決策は各自にカスタマイズしたものになりますが、今回の事例に共通していたのは、次の3点です。
- ゴールのハードルを下げる(挿入や回数を目的化しない)
- 相手のプライドを敬う(拒否の裏にある不安を汲み取る)
- 1回ポッキリじゃない仕組みを作る(再現できる形にする)
ただし、「身体の不調で性器官が痛い」「恐怖や嫌悪感が強い」「性欲の低下が続く」などの場合は、頑張るとか諦めるとかの問題ではありません。婦人科・泌尿器科・心療内科、あるいはカウンセリングなど、専門家の力を借りてください。











