『学歴社会は誰のため』(勅使川原真衣著)では、教育社会学を修め、企業の論理も熟知する組織開発の専門家が「学歴社会の謎」に迫ります。今回は本書から一部抜粋し、学歴が「仕事ができる」ではなく、どんな目印として扱われてきたのかについて紹介します。
学校は「ろくなことを教えていない」
学校教育というのは万年、その後の受け皿となる企業側から文句を言われているような気もします。「学校ではろくなことを教えていない。仕事に必要なことをもっと叩き込んでくれよ」と。教育サイドが反論しにくい文句を、企業側が都合よく偉そうに言っているだけの話のような気もしますが。
だって「企業は企業で人材育成してくださいよ」なんて吠えたところで、「じゃあお前みたいなのは雇ってやらないからな」と言われたら終わりなんですもん。
生殺与奪、つまり「もらい」を給与というかたちで、決める側(=雇う側)が握っているのです。
学歴は重視するが学校は即戦力育成の場ではない
本筋に戻りますが、「学歴が職業選択にも影響するのであれば学校で学ぶことと仕事内容は当然、バッチバチにリンクしているんですよね?」という議論。これは専門的になされてきていますが、大手を振って、「学校は職場における即戦力を育成しています!」 と言える状況ではないことは確からしい模様です。
さて、先にもう1つの検討事項を挙げました。
学校教育の職業的レリバンス研究に加えて、「学歴は何の象徴として、職業采配機能を担うまでになったのか?」という点です。
職業的レリバンス研究で言うと、学歴が仕事の遂行の上手さそのものを指し示す(占える)ものとは言えなさそうでした。
学歴フィルターの正体は?
となると、学歴は……いったい何を私たちに教えてくれる情報だと思われているのでしょうか?専門的には「難しい大学に入り、長い間高等教育を受けたのなら、少なくとも仕事をさせたときの『訓練可能性』はあるよね」という見地から、学歴の有用性が説明されてきた流れがあります。
つまり、仕事のパフォーマンスを具体的に占うことはできなくとも、「この人、(仕事でも)頑張れますよ!」というシグナル(目印)、お墨付きが必要ならば、それを表すのが学歴だ、ということです。
何を学び、何をどうやっていくか? は未知でも、「訓練可能性」としての「学歴」を見れば、一定の達成を予見することはできなくない気もしてくると。
これを良しと考えるか悪しきと考えるかはここでは問いませんが、第1章でも述べたとおり、学歴が職業的成功を采配していくという一面は、「訓練可能性」で仕事をする様子を想像するしかないと考える理屈に下支えされているわけです。
職に就いてからの具体的な仕事内容が詳らかでないとしても、歯を食いしばれる人かどうかは、学歴からわかる─いまだに企業の人事担当者も、表立っては言いませんが、まぁ否定できない見方とは言えそうです。
学歴フィルターなるもので就活生を選抜している企業も、大学で学んでいることが、そのまま企業の発展に役立つとは思っていませんから。
ただ、ある程度の素地と、多少つらいことがあっても学び続け未来を切り拓いていけそうか? そんなことは見ているようです。
余談ながら、マイケル・スペンスの「シグナリング理論」は、ミクロ経済学の概念ですが、その背景には欧米諸国における労働が大前提として「ジョブディスクリプション(職務要件)」がしっかりとした状態であることは付言しておきましょう。
企業の採用活動において、「学生の本当の能力ってわからないよね」という「情報の非対称性」を基にした議論です。
他方で日本は、ジョブディスクリプションもないのに、「学生側の『能力』がよくわからない」という点だけを問題にしている状況が続いているように思います。
つまり、就職活動時の大前提が欧米諸国と異なるのに、「情報の非対称性」や(企業と個人との)「権力勾配」の問題が都合よく看過されたままであることは押さえておきたい視点です。
本筋に戻りますが、実際の人事の声として、学歴についてはこんなことがよく言われます。
・基礎学力の予測に役立つ
・努力できる人材であるかを判断できる
・高学歴の人ほど優秀だったという体験をもつ人事担当者や役員からの内定(肯定的な評価)を取り付けやすい
勅使川原 真衣(てしがわら・まい)プロフィール
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。新書大賞2025にて第5位入賞、HRアワード2025書籍部門入賞の『働くということ』(集英社新書、24年)や本書『学歴社会は誰のため』(PHP新書、25年)他、著書多数。 近著に『「働く」を問い直す』(日経BP)、『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』(KADOKAWA)、『組織の違和感』(ダイヤモンド社)がある。新聞(本よみうり堂)や雑誌(論壇誌Voice)にて連載中のほか、文化放送武田砂鉄ラジオマガジン水曜パートナーとしても発信している。







