これまでの箱根駅伝シューズシェア事情
NIKEが厚底シューズ旋風を巻き起こす前は、薄底シューズが一般的でした。その頃は箱根駅伝でも「ソーティマジック」に代表されるasicsの薄底シューズを履いて走るランナーが最も多いように見受けられ、ミズノやadidasがそれに次ぐような状況でした。そのような中、NIKEが2019年7月に販売した「ヴェイパーフライ ネクスト%」という厚底シューズが状況を一変させます。
このNIKEの厚底シューズが販売された後、2020年1月の第96回箱根駅伝では、実に90%近くのランナーが皆同じNIKEの厚底シューズを履いて走るという異様な状態となりました。
このシューズは、NIKEの特許技術をもとに作られたシューズであり、図1(特許番号6786595号)を見ると分かる通り、ソールの形状が前足部にかけて大きく湾曲していることが特徴的です。 このような形状にすることで、走っているときにシューズが前に傾くようになり、足が勝手に前に出るような効果を生み出しています。こうした特徴を有するこのシューズを履くことで、エリウド・キプチョゲ選手によってマラソンの世界記録が大幅に更新され、他にも多くのランナーが自己ベストを出せるようになりました。
NIKEの厚底シューズは特許技術によって作られているものであるため、他社がこうしたNIKEの特許技術を回避し、かつNIKEの厚底シューズと同等以上のシューズを開発するには一定の時間がかかります。したがって、その後の箱根駅伝でもしばらくはNIKEの厚底シューズを履いて走るランナーが圧倒的多数という状況が続いていました。
一方でasicsは……
その頃asicsはというと、当初海外メーカーと比べて厚底シューズの開発に後れを取っていたため、2020年1月の箱根駅伝でNIKEの厚底シューズが席巻していた頃は、まだ厚底シューズの実用化にすら至っていませんでした。そのため、asicsとスポンサー契約をしている大学でさえ、箱根駅伝ではNIKEの厚底シューズを履いて走るという状況となり、2021年1月の箱根駅伝ではとうとうasicsを履いて走るランナーがゼロとなってしまいました。
マラソンでも同様にNIKEにシェアを大きく奪われてしまうなどの危機的状況の中、asicsは社長直下のプロジェクトを発足し、社長自らが意思決定を行うなどして驚がくのスピード感で厚底シューズを作り上げ、技術開発を重ね、ようやく2025年1月の第101回箱根駅伝でNIKE、adidasと並んでシューズシェアの三つどもえの争いをするまでになりました。
2025年夏に開催された東京2025世界陸上の男子マラソンでも、上位入賞者8人のうち3人がasicsの厚底シューズを履いており、上位入賞者のシューズシェアNo.1となりました。中でも、イタリア代表のアウアニ選手は、当時販売されたばかりのasicsの最新モデル「METASPEED RAY」を履いて3位に輝きました。
「METASPEED RAY」は、とにかく軽いのです。片足で約129g(27cmの場合)なので、バナナ1本、柿1個、リンゴ1個よりも軽いという、厚底シューズ史上最も軽いシューズなのです。
このような軽さを実現するため、asicsが特許を有する特殊な素材やシューズ製法といった技術が多く用いられていると考えられます。
そしてこの「METASPEED RAY」は、軽さだけではない、日本メーカーasicsならではの日本人向けの機能も多く有しています。そうした機能は、asicsが出願している特許技術によってもたらされているように考えられるのです。
>次ページ:METASPEED RAYに用いられている日本人向けの機能








