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都心部でカメムシ大量発生はなぜ? 150年ぶりに現れた“臭いヤツ”と地球温暖化の不都合な関係

最近、東京都心部でもよく見かけるようになった“厄介な虫”カメムシ。強烈なにおいの秘密と、150年間ほぼ姿を見せなかったのに突如大発生した謎とは? プロの自然解説者がその真相を紹介します。※画像:PIXTA

All About 編集部

カメムシが150年ぶりに大発生している? その強烈な臭いの秘密とは…※サムネイル画像:PIXTA

カメムシが150年ぶりに大発生している? 写真はキマダラカメムシ ※サムネイル画像:PIXTA

最近、都会でもよく見かけるようになったカメムシ。あの独特なにおいの秘密と、これほど急激に増えている理由とは? その裏には地球規模の変化がありました。

新 都市動物たちの事件簿』(佐々木洋著)では、プロ・ナチュラリスト(プロの自然解説者)の著者が思わず人に教えたくなる“都会派動物たち”のエピソードについてお伝えしています。

今回は本書から一部抜粋し、カメムシのにおいの仕組みと、かつて150年間も姿を消していたこの昆虫が、近年大発生している理由について紹介します。
<目次>

「臭い」だけじゃないカメムシ

キマダラカメムシは体長約2センチメートルで、日本に生息するカメムシ亜科の中では最大級の種だ。背は黒地に黄色い斑点がたくさんあり、なかなか美しい。

ソメイヨシノ、カキノキ、カツラ、サルスベリ、ナンキンハゼ、ケヤキなどいろいろな樹木の幹に口を刺して汁を吸う。

東京都心部などでの主な活動時期は4月ごろから11月ごろにかけてだが、成虫で冬越しすることが多く、真冬でも公園の樹木の樹名板の裏やあずまやの天井などにとまっている姿をよく見かける。

原産は中国、台湾、東南アジアなどで、日本には江戸時代に入ったと言われている。1770年に長崎の出島で最初に発見され、1783年に新種として記載された。

そして、その後約150年間発見されなかったのだが、近年まさに突然、九州地方でよく見られるようになり、急速に北上し、1995年に広島県、2005年に大阪府、2008年東京都で見つかり、その後も分布を拡大し続けている。

私の仕事のホームグランドは東京都心部だが、もはや見ない日はほぼないと言っていい。

かなり人工的な空間で、ここで自然観察会を頼まれても、子どもたちが興味を示す昆虫はまず見つかるまいと思う場所にも、きちんといる。

それなりに大きいし、色もきれいだし、「すごく臭いから触ると給食がまずくなるぞ」というコメントも大いに受けるので、私のような仕事をする人間にはとてもありがたい存在になっている。

カメムシの魅力の1つは、幼虫と成虫のデザインの大きな違いだ。多くの種類のカメムシは、その成長に伴って、色彩や模様が変化するので、言わば「1匹で2度楽しい」生き物なのである。

このキマダラカメムシもそうで、1齢幼虫のまるでシマウマのような横縞、終齢幼虫のどこか楽器の琵琶のような雰囲気、そして成虫の「キマダラ」模様と、それぞれすばらしい。

カメムシの「臭い」の秘密

キバラヘリカメムシ ※画像:PIXTA

キバラヘリカメムシ ※画像:PIXTA

ただ、困ったことに、このカメムシは、幼虫のときからかなり臭い。成虫は臭くても幼虫はほとんど臭くないカメムシもいるが、幼虫も要注意なのがキマダラカメムシだ。

カメムシは危険を感じたときなどに、成虫は脚のつけね、幼虫は背中から臭いにおいを出す。その主成分はアルデヒドという刺激性のある物質で、それにいくつかの化学物質が混合されている。それは、敵を撃退するためのものだけでなく、周辺の同じ種類のカメムシに危険が迫っていることを伝える警報フェロモンでもある。

じつはカメムシの中には、人間がもう一度嗅ぎたくなるようなさわやかな青リンゴのようなにおいを出すもの(「キバラヘリカメムシ」というカメムシ)もいるが、たいていは多くの動物が不快なにおいを放つ。

ただにおいの好みは千差万別で、私はもしかしたら一番臭いカメムシと思っているこのキマダラカメムシのにおいでさえ、いいにおいだと言う人に会ったことがある。その人はパクチーが大好物だそうだ。

私もベトナム料理店などでフォーを食べるとき、パクチーを山ほど入れるが、まだその人の境地には至っていない。

150年ぶりの大発生の謎

しかし、このキマダラカメムシは、なぜこれほど急速に分布域を広げているのだろう。しかも、どこでも個体数がものすごく多いのだ。考えられる理由は大きく3つある。

まずは、地球の温暖化である。もともと日本より暖かい地域に生息していたこのカメムシにとって、日本列島が急速にすみやすい場所になり続けているというわけだ。これは、クマゼミ、ツマグロヒョウモン、ナガサキアゲハなどの例と似ている。

ただ、それらの昆虫はむかしから日本国内にかなりの数が生息していて、さらに生息域を広げているのだが、キマダラカメムシの場合、約150年間、ほぼ見つかっていないという点が気にかかる。

もしかしたら気がつかれなかっただけで、どこかにある程度まとまった個体数が存在していたのかもしれない。

すべての原因は地球温暖化

次に、海外から日本に人間や荷物についてやってきたことも考えられる。これは、セアカゴケグモやヒアリなどの例に似ている。しかし、かなりたくさん入ってこなければここまで多くはないだろうし、日本がここまで暖かくなっていなければ定着はできないだろう。

そして3つ目は、特定外来生物に指定されているアカボシゴマダラなどのように、誰かがどこかで意図的に逃がした可能性があるということだ。しかし、この場合も日本が暖かくなっていなければ、ここまで増えることはなかっただろう。

つまり、3つの考えられる激増の理由のすべてに、地球温暖化が大きく関わっていることは間違いなさそうだ。
  佐々木 洋(ささき・ひろし)プロフィール
プロ・ナチュラリスト。40年近くにわたり、自然解説活動を行っている。とくにホームグランドの東京都心部では、毎年200回ほど自然観察会を開催している。NHK『ダーウィンが来た!』などに出演。『どうぶつのないしょ話』(雷鳥社)、『となりの「ミステリー生物」ずかん』(時事通信社)など著書多数。NHK大河ドラマ生物考証者、Yahoo!ニュース エキスパートコメンテーター。
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