長年、結婚生活を続けていると「子どももいるから、もうセックスなんてしなくていい」「面倒だからしたくない」というカップルが増えていく。とはいえ、セックスは「愛情表現の1つ」だから、求められないことが不安にもなる。性の不一致は性格の不一致へとつながりやすい。レスから脱出したいと深刻に悩む人もいる一方、レスのままでいいという人もいるから、夫婦の性のありようは複雑だ。
レスから脱出したかった
「40代のころは脱出したかったですね。子どもたちが10代になり、私はまだまだ女として現役だと思いたいのに夫からの誘いはまったくなかった。こちらから水を向けても『仕事が忙しくて疲れてて』と言われてしまう。かといって会話がないわけではないし、私も夫のことが嫌だったわけではない」過去をそう振り返るカヨさん(57歳)。焦燥感が募り、凝ったランジェリーを夫に見せつけたこともあった。それでも夫は努力さえしなかった。
「40代後半で更年期の症状が出てきました。肩こりと偏頭痛がひどくて、セックスのことなど考えられなくなった。息子が大学受験に失敗してひどく落ち込んだとき、夫が熱心に息子と会話を重ねて立ち直らせたんです。それを見ていて、改めて夫への信頼感が増しました。家族として尊敬した。夫を男として見る必要がなくなったんです」
家族なんだから、ああいう生々しいことはしなくていい、むしろしたくない。自身の体調もあって、カヨさんの気持ちはそのようにシフトしていった。
夫の態度が豹変し……
「50代に入って、気持ちを一新しようとパートの職場を変えたり、趣味で読書会に参加したりしているうちに更年期症状は消えていきました。これからはもっと仕事をしていこうとパートを増やし、健康第一とジムにも通い始めた。性欲はほとんどなくなっていました。それでいいと思っていた」ところが55歳の誕生日、夫が突然、「きみと結婚してよかった。カヨはずっと魅力的だよ」と言いだした。そして彼女のベッドに潜り込んできたのだ。そんなことが起こるとは思っていなかったから、カヨさんはまったく心の準備もできていなかった。
「拒否したんですが、夫はやめようとしなかった。突き飛ばすことも考えたけど、それほど嫌悪感があるわけではなかったから受け入れました。でも、かつてはあんなに求めていたのに、全然、よくなかったんです。つまらないなあとさえ思った」
何のためにこんなことをしているのだろう、もういいのにと感じていたカヨさんだが、夫はとても満足したようだった。
「それ以来、夫は週に1回は必ず誘ってくるようになった。断りたいけど断れない。そして虚しい時間を過ごす。その繰り返しなんです」
あんなに求めていたのに……。その気持ちが我ながらせつないと彼女は言う。
しなくてもいいと言ったら
つい先日、とうとうカヨさんは「もうしなくていい。あなたのことは世界一、信頼しているし人として尊敬もしている。だからこそする必要はないの。卒業したい」と言った。すると夫は見て分かるほどがっくりと肩を落とした。
「男としてオレは魅力がないのかって。男とか女とか、もうそういう括りで考えるような関係じゃないと思うと答えると、夫は『オレは一生、きみを女として見てるのに』とさらにがっくりきた様子。でもそれならどうして10年前に誘ってくれなかったのか、私の誘いを拒否したのか。思わずそう言ってしまいました」
すると夫はキョトンとして「オレは拒絶なんかしたことはない」と言いだした。いつだってきみが拒否してきたんだろう、と。互いに相手が拒否したと思い込んでいたのだ。今になれば、どちらが正しいかは分からない。だが、今は夫が求めている、だがカヨさんはその気がないというのが現実だった。
私にはもう性欲がない
「私はもう性欲そのものがない。急に求めてこられて実は困っていたと正直に言いました。そうしたら夫は『オレに愛情があるなら性欲だって湧くはずだ』って。ずいぶん論理的じゃないことを言うのねと笑ってしまいました。性欲がない人に無理矢理しようというのは性暴力に近いよと言ったら、夫は『夫婦間でそんなことを言われるなんて、寂しすぎる』と。でもしたくもないのに求められる側の気持ちにもなってほしい」分かり合いたい、愛情確認をしたいがための行為なのに、実際には互いの気持ちが分断されていくことにつながってしまう。それが性の不一致なのかもしれない。
「以前は私が、夫婦なんだからしてよと思っていた。今は夫がそう思っている。しかも互いに相手に拒否されていたと思い込んで……。夫婦は『セックスしなければ』という固定観念から解き放たれた方がいいのかもしれない。今はそう思います」
夫には「月に1度くらいなら」と妥協案を出した。夫は「無理しなくていいよ」と言った。それ以来、性については話題に上らなくなった。もちろん、現実的な行為もない。そこだけには触れないようにしながら、二人の夫婦関係は続いている。
<参考>
・「ジャパン・セックスサーベイ 2024」(ジェクス)








