今回は、冬に注意すべき主な食中毒の原因と、今日から実践できる予防法を詳しく解説します。
ノロウイルス:冬の感染症胃腸炎の代表格
ノロウイルスは、例年11月頃から検出数が増加し、1~2月にかけてピークを迎えるウイルスです。感染力が非常に強く、わずか数十個程度のウイルス粒子で発症するため、集団感染を引き起こしやすいのが特徴と言われています。▼ノロウイルスの特徴
汚染されたカキなどの二枚貝の生食や加熱不足、感染者の嘔吐物や便の処理による二次感染、感染した調理者を介した食品などにより、食中毒が起きることが多いです。
ウイルスというとアルコール消毒を思い浮かべがちですが、ノロウイルスはアルコール消毒が効きにくく乾燥にも強いため、一度排出されると長時間感染力を保つと言われています。
ウェルシュ菌:作り置き料理の落とし穴
ウェルシュ菌は、特に冬場に鍋で調理した煮込み料理や作り置き料理で発生しやすい食中毒の原因菌です。▼ウェルシュ菌の特徴
加熱によって死滅する菌は多くありますが、ウェルシュ菌の胞子(芽胞)は100度の加熱にも耐える耐熱性を持ちます。加熱後、食品を放置してゆっくりと冷却される過程で、耐熱性の胞子が発芽し爆発的に増殖します。そのため、カレーやシチュー、煮物や肉料理などの大容量の作り置き料理が原因となる場合が多いと言われています。
食中毒予防の基本は「つけない・増やさない・やっつける」ですが、冬場のノロウイルスとウェルシュ菌には、それぞれに特化した対策が必要です。
ノロウイルス対策:「加熱」「手洗い」「適切な消毒」
1. 食品の徹底加熱カキなどの二枚貝を調理する際は、中心部を85~90度で90秒以上加熱する必要があります。中心部の温度を確実に上げるため、蒸し焼きではなく煮る・炒める調理法が推奨されています。
2. 徹底した手洗い
ノロウイルス対策の最も重要な予防策です。特にトイレの後、調理前、食事前は石けんを使い、30秒以上かけて丁寧に手洗いします。指の間、爪の先、手の甲、手首まで洗い、清潔なタオルやペーパータオルで拭き取りましょう。
3. 次亜塩素酸ナトリウムによる消毒
ノロウイルスはアルコール消毒では効果が薄いため、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)を用いた消毒が必須です。
・調理器具の消毒:
0.02%濃度(水1Lに対し原液約10mL ※原液濃度により異なる)に薄めた液に10分間浸します。
・嘔吐物・汚染場所の処理:
0.1%濃度(水1Lに対し原液約50mL ※原液濃度により異なる)に薄めた液で拭き取り、使い捨ての手袋とマスクを着用して処理します。処理後の汚染物は密閉して廃棄してください。
4. 調理中のスマートフォン操作に注意
近年「スマホ食中毒」というワードがメディアでも取り上げられるように、スマートフォンに付着した菌から食中毒になるケースがあります。スマートフォンを持ってトイレに入った際などに菌が付き、そのスマートフォンを触りながら調理をすると食材に菌が付着してしまい食中毒が発生するというものです。
近年は、スマートフォンでレシピを見ながら調理する人も多いでしょう。トイレに持ち込まないのは当然のこと、調理中はファスナー付きの食品保存袋などに入れて操作するようにするのがおすすめです。
ウェルシュ菌対策:「迅速な冷却」「小分け保存」「再加熱」
ウェルシュ菌の最大の対策は、菌が増殖しやすい温度帯(12~50度)を素早く通過させることです。1. 大鍋の料理は素早く冷却する
カレーやシチューなどの作り置き料理は、調理後は室温で放置せず、迅速に冷ますことが重要です。鍋の底を氷水に浸す、清潔な容器に小分けにして粗熱を取るなど、工夫して冷まします。30分以内に食品の中心温度が20度以下になるよう努め、速やかに冷蔵庫(10度以下)で保存しましょう。
2. 小分けにして冷蔵・冷凍保存
大きな塊のまま保存すると、中心部の温度がなかなか下がりません。調理後はすぐに一食分ずつ清潔な密閉容器に小分けにして保存し、冷蔵庫や冷凍庫に入れます。
3. 再加熱は中心部を75度以上に
保存していた料理を食べる際は、再加熱でウェルシュ菌の栄養細胞を殺菌する必要があります。食べる直前に、中心部まで確実に75度以上になるよう十分な火力で加熱しましょう。ただし、耐熱性の胞子を完全に破壊することはできません。
冬の食中毒は症状が重くなるケースも多く、家庭内での二次感染は非常に厄介です。「油断せず、正しい知識で適切な処理を行う」ことが、家族の健康を守る鍵となります。これらの予防策を実践し、安全で温かい冬の食卓を楽しみましょう。
【参照】
農林水産省:煮込み料理を楽しむために~ウェルシュ菌による食中毒にご注意を!!~









