Q. クマに襲われてしまった場合に備えて、一般人が知っておくべき応急手当はありますか?
連日報じられるクマによる人的被害。万が一に備えて知っておくべきことは?
A. まずは出血状態の確認と、できる限りの止血です。手当が命を左右します
筆者は形成外科医として勤務しており、過去にはクマ外傷の治療経験もあります。クマに襲われてしまったことで受けるクマ外傷の治療は複雑で、長期にわたることも多く、非常に大変です。質問者の方も書かれている通り、とにかく遭わないように工夫することが第一です。しかし万が一クマに遭遇し、ケガを負ってしまった場合、応急手当によって命が左右されるケースもあります。ケガの程度や状況により処置は異なりますが、救急車を待つ間にできる重要な応急手当はあります。
まずは「出血の有無の確認・止血」、そして「骨の評価・対応」、最後に「傷の処置」です。順番に解説します。
1. 出血の有無の確認・止血……命を左右する最も重要な手当
まず何よりも大切なのは、出血の有無と状況の確認です。クマにかまれたり引っかかれたりした場合、人の体が受けるダメージは非常に大きく、命を落とさずにクマから逃れられたとしても、その後の出血状況によって不幸にも亡くなってしまうことは珍しくありません。
あまり考えられませんが、もし出血が見られないか、あっても少量であれば、出血処置は省略し、2の骨の評価に移ります。
そして、もし大量に出血している場合、出血が動脈性か静脈性かを判断する必要があります。血の出方に拍動があれば動脈性の出血です。赤い鮮やかな色の血液を認めます。この場合、何も対応しなければ大量の出血が続き、ただちに命にかかわる事態になります。とにかく少しでも早く出血を止めることが重要です。
動脈性の出血の場合、可能であれば清潔なハンカチやガーゼなどを傷口に当て、心臓より高い位置に保ちながら直接圧迫します。傷口を圧迫しても出血が止まらない場合は、損傷した血管を傷口よりも少し心臓に近い位置で強く圧迫します。出血している人の血圧よりも大きい力で押さえる必要があるため、150~200mmHgの圧が必要なことが多いです。数値だけではイメージが難しいかもしれませんが、血圧計で圧を加えられたとき、上腕に加わる最大の圧と同程度と考えてください。圧迫が弱まると、再び出血してしまいますので、ほぼ完全に止血された状態が続くよう、持続的に強く圧迫を続ける必要があります。命を左右する応急手当ですが、圧迫するだけとはいえ非常に疲れる作業です。複数の人がいるのであれば、交代で圧迫することも検討しましょう。
血の出方に拍動がなく、黒っぽい出血の場合は、静脈性の出血だと考えます。この場合は動脈性の出血よりは低めの圧で、出血している部位をピンポイントで圧迫してください。
どちらの出血でも、出血量が大きい場合は生命にかかわります。圧迫止血が非常に重要な対応です。
2. 骨の評価……骨折があっても救急車がすぐにくる場合はそのまま安静に
骨折が疑われる場合、救急車がすぐ到着でき、安静が保てる状況であれば、固定は省略します。救急車が到着するまで、なるべく動かさないようにしましょう。
もし、救急車の到着に時間がかかり安静を保つのが難しそうな場合や、山中などで自分たちで何らかの対応をしなければならない場合などは、それ以上の悪化を防ぐことが理想です。難しい状況だと思いますが、木や金属など、その場にあるものを使って、なるべく骨折部位が動かないよう固定しましょう。
3. 傷の処置……感染リスクを下げ、スムーズな治療につなげる
最後に傷の処置です。専門的には創処置(そうしょち)と言います。可能であれば清潔な水で傷口を洗浄した上で、ハンカチ、タオル、それらがない場合は、衣服などを使って、傷全体をカバーすることが理想です。
これは傷口からの細菌や異物の侵入を少しでも抑えることで、感染症のリスクを下げることができます。特にクマ外傷の場合、自然の中で起きるケースが多いこと、クマが持つ細菌感染のリスクも高いことから、感染対策はその後の治療においても重要です。
また、傷口をカバーすることで、それ以上組織が傷つかないようにし、その後の治療を少しでもスムーズにするためにも役立ちます。
まずできる手当は以上です。あとは救急車の到着・搬送を待ち、適切な医療につなげてください。







