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さいたま市の新制度に元教員が見た光。夢を語る子どもと止まる大人…真のキャリア教育とは?

教員不足の今、元教員が問いかけます。制度の柔軟化が進む裏で、私たち大人の「硬さ」こそがキャリア教育を妨げていませんか? 子どもたちが夢を語る姿に、大人が自分自身の生き方を問うきっかけを見つけました。(画像:PIXTA)

坂田 聖一郎

坂田 聖一郎

子育て・教育 ガイド

大学卒業後、芸人を目指し現在「しずる」村上純とコンビ結成するも解散。その後、教員を13年間経験。独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングを」をスローガンのもと、「ままためコーチング塾」をスタート。子育てや家事で忙しいお母さんや教員にも親しみやすい丁寧な指導が好評。

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キャリア教育の重要性は、もはや議論の余地がありません。しかし、本当に問うべきは、「子どもたちに、大人たちのどんな『生き様』を見せられているか」ではないでしょうか。

子どもたちが自分の将来を描く力を育むことはもちろん大切です。しかし、そのためには「学校」という場そのものに、どんな人が関わり、どんな価値観が許容されるのかが問われているように感じます。

筆者は元教員として、現在は教育支援を行う立場で活動しています。そんな中、私が主宰するコーチング塾生で小学校教員の方から、ご自身が勤務されている横浜市立三保小学校の6年生に向けてキャリア授業を行う機会をいただきました。この授業を通して、子どもたちの姿に改めて学ばせてもらい、そして「大人が教育にどう関わるか」「学校がどうあるべきか」について改めて考えるきっかけになりました。

本稿では、その気付きをもとに、キャリア教育における「学校の役割」と「教員の在り方」、そして「子どもたちの可能性」について、現場感を持ってお伝えしたいと思います。
学校(イメージ)

横浜市立三保小学校で行ったキャリア教育の様子

<目次>

挫折を語る等身大の筆者に、子どもたちが示した「軽やかさ」

このキャリア授業では、私が小学校の頃いじめられていたことから始まり、かつてお笑い芸人を目指していたこと、教員から起業家へとキャリアを変えていったこと、さらには起業直後に銀行残高が1万円になった話など、等身大の自分の人生を語りました。

もちろん、立派な成功談ではありません。むしろたくさんの挫折や遠回りを重ねてきた経験です。ところが、子どもたちはそれを真剣に受け止めてくれた様子で、のちのアンケートには筆者に「夢を諦めず切り開いて実現した人」という印象をもったと多く書いてくれていました。

伝えたいと思っていたメッセージが伝わったというよりも、子どもたちはすでに自分たちの感覚としてそういった生き方をしたいという人生観を持っているのだと感じました。むしろ、変化を恐れず、夢を自由に描くという「軽やかさ」を自然に備えている。そこに、こちらが教えられるような気持ちになりました。

授業後、希望者に対して簡単なコーチングのワークも行いました。「やってみたいことは?」「なぜそう思ったの?」と問いかけると、子どもたちはしっかりと自分の言葉で答えを導き発言していました。

「止まっているのは大人の方」大人は“硬さ”を手放す勇気を

学校(イメージ)

動けないのは子どもではなく、大人の方かもしれない

保護者との会話から将来の新たな可能性を感じたエピソードや、「今やっているスポーツを極めて選手になりたい」といった話まで、どの子もしっかりと自分の夢を描いていました。

その姿を見ながら、筆者は実感しました。「子どもは、すでに動き始めている。止まっているのは、むしろ大人の方かもしれない」と。大人になると、失敗への恐れや常識の枠、安定へのこだわりが行動を制限してしまいます。その結果、「変わること」が怖くなってしまうのです。

これは教育現場でも同じで、教員や保護者が「こうあるべき」「こうすべき」に縛られ過ぎている結果、子どもたちの自由な発想や挑戦の芽を知らず知らずのうちに摘んでしまっているのかもしれません。だからこそ、大人がまず自分自身の“硬さ”に気付き、それを手放していくことが、キャリア教育においても重要なのではないかと感じています。

教育現場が「戻れる場所」になることで、キャリア教育は前進する

筆者は現在、教員を辞めて起業し、教育に外側から関わる立場になっています。しかし、今回の授業を通して、教員が新たなキャリアを経て、再び学校に戻るという選択をすることが、キャリア教育上で大変意義があると感じました。

実際、今回の授業では教員時代に自分が伝えられなかったことを伝えることができました。また、教室に入ると何とも言えない懐かしい気持ちとともに、「子どもたちに授業がしたい」という熱い気持ちが湧いてきて、とても貴重な機会となりました。
学校(イメージ)

「戻れる場所」としての学校が、キャリア教育の可能性を広げる

ちょうど今、さいたま市で「ティーチャー・リターン制度」という新たな取り組みが始まっています。これは、育児や介護を理由に教職を離れた教員が、柔軟な条件で復職できる制度です。一度教壇を離れても戻れる、というメッセージが社会的に可視化されたことは、大きな意味を持つと思います。

教員としてフルタイムで働く以外にも、非常勤や講師、コーディネーターなど、教育に関わる方法はたくさんあります。重要なのは、「教育に関わり続けたい」という思いを持った大人が、その思いを実現できる“柔軟な接点”が学校に用意されていることです。

子どもたちにとっても、そうした多様なキャリアの大人と出会える機会は、自分の未来を描くための貴重な学びになります。学校が「戻れる場所」「関われる場所」であることは、教員不足への対応だけでなく、教育そのものの可能性を広げることにもつながるのです。

知識を与えること以上に、大人が「生き方」を示す

学校(イメージ)

何よりも大事なことは、子どもに誇れるキャリアを大人が生きること 

今回の授業を通じて、最後に自分自身に問うことになったのは、「私は、子どもたちに誇れるキャリアを生きているか?」という問いでした。

ここで言うキャリアとは、地位や収入のことではありません。「自分の選択に納得しているか」「挑戦し続けているか」「失敗をどう受け止めているか」といった、生き方そのもののことです。

子どもたちは、大人の言葉よりも背中を見ています。だからこそ、大人が自分の人生に責任を持ち、迷いながらでも前に進む姿を見せることが、何よりの教育になるのだと感じました。

教育とは、知識を与えること以上に、「生き方を示すこと」でもあります。キャリア教育を語るなら、まずは私たち大人が、自分自身のキャリアをどう選び、どう生きているかに目を向けることから始めるべきではないでしょうか。

子どもが軽やかに生きているなら、大人もまた、軽やかに変化していいはずです。そう信じて、これからも教育と関わりながら、自分の生き方を磨いていきたいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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