デートの割り勘は基本となったが
かつてデート代は男性がほぼ全額出すものだった。金払いのいい男はモテるというのが通説だから。そして男はモテたいと願っていた。女性はそこに乗っかっていればよかった。そのころは男女の賃金格差も今より大きかったから。女性は食事をおごってもらったら、その後のお茶をごちそうする。あるいは次回、待ち合わせたカフェでの代金を払う。その程度でよしとされていた。ただ、時代は変わった。もともとの知り合いではなく、友達に紹介されたわけでもなく、マッチングアプリで知り合って会うことになった相手であることも多い。誰に義理を感じる必要もないから、男性も割り勘を主張しやすい。一方の女性側も、「自分だって働いている。おごってもらったことで借りを作りたくない」という思いがある。だから割り勘が基本となった。
だが問題はここからだ。いつでも1円単位まで割り勘にするのか、食事をしてバーに移動することが分かっている場合も、それぞれの店で割り勘にするのか。つきあうようになってからも完全割り勘なのか……。交際期間が長くなってもその状況は続くのか。お金の問題は遺恨となりやすいので気を付ける必要はあるが、毎度の割り勘も面倒。キャッシュレスの場合はどうするのかなど悩みは尽きない。
彼との結婚を迷いはじめた
「マッチングアプリで知り合い、半年前からつきあっている彼がいます。一応、結婚前提ということになっているんですが、このところちょっと迷っていて……」ハナさん(33歳)は困り顔でそう言った。知り合ってメッセージのやりとりを重ね、1カ月後に初めて会ったときは、初対面とは思えないほど話が弾んだ。そのときはカフェでお茶しただけだったので、彼が出してくれたという。
次に食事の約束をした。彼が自分に任せてほしいと言った。ところが彼が予約したのは、ハナさんが予想していたよりはるかに上等な店だった。
「どういう店か聞いたんですが、教えてくれなかった。『いい店だよ。仕事帰りの服で大丈夫。とにかく楽しみにしてて』というので、仕事用のスーツで行きました。ところが待ち合わせて彼が連れていってくれたのは、もうちょっと華やかな店で……。おいしかったし、話も弾んで楽しかった。いざ支払いとなったとき、まあ、彼が誘って彼が決めた店だし、ここは彼の支払いだろうなと思ったら、なんとその場で割り勘。店の雰囲気からしても、男性が気取って支払うんじゃないかという雰囲気だったんですけどね」
総額を言わず1万円を要求
しかも彼はカードで支払い、総額を見せないまま彼女に1万円を要求してきた。彼女は「悪いけど、ちょっと待って。いくらかかったの?」と聞いた。すると彼は「いや、きみは少なめでいいから」と的外れな答えが返ってきた。「『そうじゃなくて、いくらなの』と言っても彼は答えない。トイレに行くふりをして店の人にどうしても教えてほしいと言ったら、総額2万円でした。『なんだ割り勘じゃないか、どこが少なめなんだよ』とムッとしました」
彼女はテーブルに戻って彼に2万円を突きつけて、一人でさっさと帰った。ところがその晩から彼の謝罪電話が止まらなかった。
「本当にごめん。でもきみの態度にほれ直した。今度からは正直に言うから、もう一度、ゼロからスタートさせてくれないかって。話も合ったし、本当に楽しかったので、それを聞いて私もやり直そうと決めたんです」
本性を現した彼
見栄を張らず、正直に。二人はそう決めて、それからは身の丈に合った店を選ぶようになり、ときには彼の一人暮らしの部屋で一緒に料理を作ったりもした。「そうしたら彼、本性を現したのか、かなりきっちり割り勘を要求してくるようになりました。それはそれでいいけど、キャッシュレスの店に行くと、彼がだいたいPayPayで払って、私にPayPayで半額を送金してと言う。彼が細かいから私も細かくなっちゃって、そういうときのポイントはどうして彼が総取りするんだろうと気になる……。そういうのってどうよと冗談交じりに言ってみたら、『ポイントがほしいわけ? じゃあ、自分で払えばいいじゃん』とちょっとキレ気味になった。小さな個人のお店で現金のみのときは、『オレ、現金もってない』って。一銭ももってないわけないでしょと思ったけど、そのときは私が払いました。あとで半額ちょうだいと言いづらくて黙っていたら、一向に払おうとしなかった」
結局、デートのたびに小さな棘のようなものが残るとハナさんは言う。先日、彼が「具体的に結婚を考えよう」と言ったとき、「うれしい」と思えなかったのが正直なところだそうだ。
「私はもともとアバウトな割り勘派なので、本当は食事を彼が出してくれたら私は映画代を出すという感じの方が好きなんですよね。デートのときに使ったお金が、だいたい半分ずつになればいいよね、という感じの割り勘が一番いい。そう思ったとき、彼とはやはり無理かなと。別れる方向で考え始めています」
お金は本当に難しい。「この人のためになら使う。損得はどうでもいい」と思えるような人に巡り会いたいとハナさんは言った。