『部下からの逆パワハラで“もう無理”と思ったときに読む本 悩める上司への処方箋』(加藤京子著)では、「逆パワハラ」を受けた上司が陥りやすい思考の罠についてお伝えしています。
今回は本書から一部抜粋し、「逆パワハラ」を受けた上司が自分自身を追い込んでしまう9つの思考パターンについて紹介します。
「なかったもの」にしがちな感情とは?
モンスター社員を「嫌だな」と思う……自分自身の不適切な感情を「なかったもの」とすることで、もしかして、モンスター社員を「悪くない人物」と思おうとしていませんか?(結果として、かばおうとしていませんか?)。どういうことかというと、「彼はモンスターじゃないよ」と思うことで、「自分は、部下をモンスター化させてしまった、そんな不甲斐ない上司じゃないよ」とする、「自分を『悪くない状態』にして自分を救おうとしていないか」ということです。
たとえば、明らかにモンスター社員に問題があるというのはわかりつつも、こんな考えが頭に浮かばないでしょうか?
思考パターン1. 部下を持ち上げる
【1】「話せば改善できるはず」「実は彼、今、成長過程にあるんだ」と、部下に期待する感情上司という立場上、「部下の成長を信じたい、支えたい」という意識があるはずです。支援したいと考えるのは、当然のことです。あえて頑なに、部下は「自らの力で、必ず変わってくれるはず」と疑いを抱きつつ信じようとします。
【2】彼も「悩んでいることがあるかもしれない」と、部下を慮る感情
上司という立場上、「部下の真意をわかってあげなきゃ」という意識があるはずです。部下にも悩みや葛藤があり、そのはけ口として攻撃的な行動に出ているのではないかと考えます。相手を同情し、かばおうとする心理が働くことがあります。
【3】性善説(生意気を言ってるけど、本当は心の優しい人間)で、部下を支援する感情
上司という立場上、「部下を評価しよう」とします。「頑張っているけど、何か理由があって、こうなったのかもしれない、本当はいいヤツ」……と、相手を憎んでいるのに「愛情いっぱいの表現」をしてしまう……。
少し気持ちに負荷がかかっているかもしれません。
思考パターン2. 上司らしくなろうとする
【4】冷静さを装うけど……上司としての立場上、「ここで感情的になったら負けだ」「大人として冷静でなければ」という「あるべき論」で自分を抑え込みます。恐ろしいのはそれが「常態化すること」です。
しかしそれは“本心”ではなく“理性の仮面”であり、本当は腹が立つし、傷ついてもいるのです。「誰も自分を守ってくれない」という孤独感に苛まれることもあります。
【5】「わかってあげたい」と思うけど……
上司として、部下の未熟さや甘えに「仕方ない、若いから」「自分も若い頃はそうだったかも」と共感しようとします。“理解ある上司”を演じようとするものの、心の奥底では「なんでこんなに我慢しないといけないんだ」という怒りと理不尽さを噛み殺しています。
【6】過剰な責任感を抱くけど……
上司として、自身の「マネジメント能力が足りないのか」等、自分の不足を探します。「自分の指導や関わり方が悪いのでは」「本当に自分が無能だからこうなるのか」と、部下の問題を〝自分の問題〟に変換してしまう過剰な自責感です。
一方、内心は「いや、さすがにこれは相手側が悪い」とうっすらわかっています。葛藤がうずまいているからこそ苦しいはずです。
思考パターン3. 逃避する
【7】「感情を殺して笑っている自分」からの逃避上司として、「自分は彼にもっと優しくしてあげなければいけなかったのか」と愛情を寄せ、無理して笑みをたたえます。そのうち、「本音を言える場所がどこにもない」となります。全てが虚しくなって逃げ出したくなります。
【8】人間関係の問題からの逃避
職場の人事考課や評価システムの欠陥が原因と考えられる場合、部下を批判するのではなく、「評価や目標管理制度」という全体問題に置き換えてしまうことがあります。人間関係の問題と位置づけず、矛先を変えてしまいます。そうすると、ちょっと楽になります。
【9】逃避というより麻痺
自身が逆パワハラの被害者になっているということを認めたくない感情、「そういうの、よくあることだよ」「それくらいの言動は、逆ハラスメントとはいえないかもしれない」等、些細なこととして受け流します。
そのような苦しみが慢性化すると、苦しみを苦しみと認識しなくなります。だんだん耐性が麻痺する、というのでしょうか。
自分を責めて相手をかばう「歪んだ自己犠牲」
数回程度、「相手に期待すること、相手を信じること」は良いのですが、深刻な逆パワハラを受けながら、ここまで書いた【1】~【9】までの状態に自分を追い込むのは、かなりストレスがかかるはずです。これは、なにも「部下と敵対してください」というわけではありません。無防備に、無意識に「陥ってはいけない思考回路」という意味でお伝えしています。
この「わかったふりをする」というのは、「強さ」のようでいて、実は「孤独」と「無力感」の表れでもあります。その場で怒れば、「器が小さい上司」に見られてしまうことがわかっているからです。誰でも「惨めな自分」を直視することを好みません。
たとえば、虐待を受けている子供が、第三者に対して、「親は悪くない」と「かばう」ことがあ
るようです。子供は自分が虐待される理由を「自分に責任がある」と感じることがあります。「自分が悪いから叱られる」「自分がもっと良い子なら親は優しくなる」と考えやすく、自らを貶め、親の行動を正当化しようとします。
上司部下の問題と「親子関係」と同じにするには拡大解釈があるかもしれませんが、このように
自分を責めて相手をかばおうとする「歪んだ慈愛」、相手を悪者にしたくない「歪んだ自己犠牲」という視点でいうと、逆パワハラを受けている上司の思考回路と多くの共通点が窺えます。
【加藤 京子(かとう・きょうこ)プロフィール】
H・Rサポート、株式会社クレドコラ(credocara)代表。青山学院大学文学部フランス文学科卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)入社。1998年に社会保険労務士資格取得、2000年に独立開業~現在H・Rサポート(港区西新橋にて社会保険労務士事務所経営)、2004年には研修講師として活動開始し、管理職選抜・昇格審査事業の一環として、部下育成の相談(面談)を受託。年間約100日(20年間)、約2万人対応。現在、研修講師および人材アセスメントのチーフコンサルタントとして活動中。著書に『Z世代に嫌われる上司 嫌われない上司』(ぱる出版)がある。