
「睡眠時間を削って働いても問題ない」 ショートスリーパーは実際に存在するのでしょうか? ※画像:Shutterstock.com
「4時間睡眠でも平気」「睡眠時間を削っても集中できる」「自分はショートスリーパーだから」ビジネスパーソンの間では、“眠らないこと”が、しばしば優れたことのように語られます。
しかし睡眠時間を削ることは、将来の寿命の前借りになっている可能性があります。医師として声を大にしてお伝えしたいのは、短時間睡眠でも平気と感じる状態自体が、すでに身体からの危険信号かもしれないという点です。リスクについて、分かりやすく解説します。
全人口のわずか0.004%……本物のショートスリーパーは非常にまれ
ショートスリーパーという言葉が一般化し、「短くても質のよい睡眠を取ればいい」という説も散見されます。しかし医学的には、短時間睡眠でも健康を保てるのは、DEC2遺伝子などの特定の遺伝子変異を持つ人に限られると考えられています。この遺伝子変異を持つ人の割合は、全人口の0.004%ほどです。つまり、医学的に“本物のショートスリーパー”とされる人は非常に限られた存在で、ほとんどの人はこの“特別体質”には当てはまりません。それでも多くの人が少ない睡眠時間でも「自分は大丈夫」と感じてしまうのはなぜでしょうか? その理由の1つが、寝不足による“錯覚”です。
錯覚のパフォーマンスが生む、危うい“無敵感”
睡眠不足の状態になると、体内ではアドレナリンやコルチゾールといったストレスホルモンが分泌され、一時的に興奮状態になります。そのため「集中力が高まった気がする」「寝ていないのに元気」と錯覚してしまいます。しかし、これはあくまで誤った感覚です。実際には脳や体のパフォーマンスは確実に低下します。
仕事での判断ミスや、感情の起伏が激しくなるなどの精神面の不安定さ、対人トラブルなどが起きやすくなります。それでも自分では“できている”と錯覚してしまうため、気付かぬうちに信頼や成果を損なわれてしまうケースも少なくありません。
6時間未満の睡眠は危険! 睡眠不足が招く、静かな健康リスク
6時間未満の睡眠を続けることは、「将来の寿命を前借りしている」ようなものです。近年の研究では、心疾患や脳卒中、糖尿病、がん、アルツハイマー型認知症など、生活習慣病の多くが、睡眠不足と密接に関連していると報告されています。免疫力の低下や肥満リスクも高まるため、感染症にもかかりやすくなります。
さらに怖いのが、こうした健康リスクはじわじわと進行し、気付いたときには手遅れになっていることが多い点です。
睡眠は“サボり”ではなく、“最高の健康投資”!
「早く寝るのは怠け」「寝る間も惜しんで働くのが美徳」といった価値観は、残念ながらいまだに根強く残っています。しかし、これは誤解です。睡眠は、自分と大切な人の未来を守るための「戦略的な健康投資」です。私たちの健康やパフォーマンス、そして人生の質は「どれだけ健やかに生きられたか」にかかっています。特に40代以降は加齢とともに回復力が落ちていくため、「睡眠の質」が10年後、20年後の健康状態を大きく左右します。
睡眠は単なる休息ではありません。脳と身体のメンテナンスを行い、翌日の集中力や免疫機能を高める自己修復の時間なのです。仕事の効率を上げ、体調やメンタル、肌の調子を整えたいなら、睡眠に対する意識を変え、質と量の両面から見直しましょう。あなたの毎日はさらにクリアに、活力あるものに変わっていくはずです。
「忙しくても、睡眠時間だけは削らない」という「寝る勇気」が、あなたのパフォーマンスと寿命をのばします。