あまりにもビックリして泣くだけだった
「結婚して20年たつ同い年の夫の不倫が分かったときは、何も手につかないような状態でした。食事の支度をしていても涙がこぼれてくる、でも子どもたちには知られたくない。職場でもあり得ない凡ミスをしました。心ここにあらずになっている自分にもショックを受けた」ユウカさん(48歳)は3年前の騒動を振り返った。当時、高校受験を控えた娘と、中学生になったばかりの息子がいたが、感受性が強く、父親が大好きな子どもたちには絶対に知られたくなかったという。
「どうして不倫を知ったかというと、相手の女性がSNSのDMで挑戦状を突きつけてきたからです。相手は29歳、夫の職場の女性でした。『あなたのダンナさんと付き合っています。私たち、本気なので早く別れてください』って。正直言って、頭の悪い女だと思いました。自ら暴露して何をしたいんだか……。そんな女と付き合っている夫にも幻滅したから、そのDMを夫に見せたんです。夫は顔面蒼白になっていました」
本気じゃない、魔が差したと言い訳する夫を、「どうせなら、もうちょっとまっとうな女と付き合ってよね」と怒鳴りつけた。夫は「ごめん、申し訳ない」と平身低頭したが、とても許す気にはなれないと伝えた。
同僚に叱咤(しった)激励されて
「『慰謝料を要求しますよ、あなたにどのくらいの貯金があるか分からないけど、弁護士を立てますからそのつもりで』とDMを返したら、相手の女は『やっぱり奥さん、怖い人なんですね。ダンナさんが怯えてるのもよく分かった』と。ムカつきました」ユウカさんは夫とは別の会社に勤めているが、親しくしている同期の女性に思わず愚痴をこぼすと、彼女はキリッとした表情でユウカさんを励ました。
「『あのさ、若い女になめられちゃいかんのよ。私ら、人生のキャリアを積んできてるんだからさ。それを魅力と思わないのは夫たちが悪いのよ。夫が妻にビビるのだって、女は弱い方が御しやすいと思ってるからでしょ。そういう全ての問題に私たちは立ち向かわなくちゃ』と何だか分からないけど叱咤(しった)激励されて、私も負けてたまるかという気持ちになりました」
本当は勝ち負けじゃないんですけどねと、ユウカさんは笑いながら言う。
お金で気持ちは晴れないけれど
ユウカさんはすぐに弁護士に会いに行き、すぐに別れること、慰謝料を払うことなどを明記した内容証明の手紙を相手に送ってもらった。「手紙を受け取った彼女は少しは怯えたんでしょうね、夫に連絡してきたみたいです。夫から『彼女は派遣だし、収入も高くないから貯金もない。慰謝料は勘弁してやってほしい』と言われました。でも夫が既婚なのを知っていたわけですから、私は許さないと伝えました。離婚するなら話し合おうかと言うと、夫は『いや……』と。最初はずっと泣いてばかりいたけど、その後は一転して攻撃的になっている自分を感じていました。若い女に負けてなるものか、なめられてたまるか。それだけが私を支えていたような気がします」
結局、裁判も辞さないと決めたユウカさんに対して、相手が折れた。請求額の3分の1にもならなかったが、彼女の親が娘にお金を貸すという形で決着した。
「彼女も大人なんだから親まで巻き込むこともないのにと、親御さんがちょっと気の毒になりましたが、やっぱりいいわというわけにもいかない。お金をもらったからといって気持ちが晴れるわけじゃない。ただ、そういうことをするとどういうことになるのか知らしめたかった。夫は『ユウカがそこまでキツい女だとは思わなかった』と小声で言ったので、『私がどれだけあなたを愛しているか、それを想像もしなかったんでしょ』と言ってやりました」
堂々と生きる
仲よく暮らしてきたと思っていたし、この世で一番信頼できる人だとも思っていた。そういう夫に簡単に裏切られたことを、どうしても認めたくなかったとユウカさんは言う。「夫は魔が差したというけど、浮気だの不倫だのを軽くとらえ過ぎだと思うんです。された側がどれほど傷つくか……。自分の人生を否定されたような気にすらなるんですよ。私なんか相手の女性から“ババア”呼ばわりまでされた。好きで年食ったわけじゃないし、私は私の人生を誠実に歩んできたつもり。他人のそういう大事なプライドをズタズタにするのはよくない」
若い女になめられてたまるか。ユウカさんはこれからもそう思いながら生きていくと語った。一方で、夫への信頼はいまだ取り戻せてはいないそうだ。