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緊急避妊薬がついに薬局で購入可能に! アフターピルOTC化で考えるべき性と生殖に関する自己決定

【産婦人科医が解説】緊急避妊薬の薬局販売(OTC化)が実現します。これは「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」を守る大切な一歩です。OTC化の経緯、緊急避妊薬の正しい使い方、安全性、10代への対応、費用や面前服用の課題について、分かりやすく解説します。

清水 なほみ

清水 なほみ

産婦人科医 / 女性の病気 ガイド

女性医療ネットワーク発起人・NPO法人ティーンズサポート理事長。日本産婦人科学会専門医で、現在はポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長。清水(須藤)なほみ。病院に行きづらいという患者さんの悩みを、現役医師の知識を活かしてサポートします。

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説明する医師のイメージ

緊急避妊薬が処方箋不要の市販薬に。メリットと注意点は?(出典:Shutterstock)


2025年8月29日、緊急避妊薬をスイッチOTC化し、医師の診察なしで購入できる市販薬として了承することを、厚生労働省が了承しました。未成年であっても、年齢制限や親の同意なく、薬局で緊急避妊薬が買えるようになります。産婦人科医の視点で、メリットと注意点を解説します。
 

緊急避妊薬のスイッチOTC化は、「性と生殖に関する健康と権利」を守る基本

「スイッチOTC化」とは、処方箋が必要な医療用医薬品のうち、副作用の少なさや安全性の高さが認められた実績がある成分を、処方箋不要で薬局などで購入できる「市販薬(OTC医薬品)」にすることを指します。

今回決まった、緊急避妊薬のスイッチOTC化は、「SRHR」の観点からも非常に重要なことです。SRHRとは、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」の略。全ての人々が性や生殖に関する健康と権利を享受できる、という考え方です。

SRHRには次のような要素があります。

■自己決定権
自分の身体、性的指向や自認、性表現、性的行動について、自分自身で決める権利

■情報へのアクセス
性、生殖、避妊、妊娠、出産に関する正確な情報や教育を受ける機会

■医療とケアへのアクセス
安全で質の高い医療、避妊方法、生殖に関するケアサービスを受けられること

■安全で満ち足りた性生活
性的な行動が強制されたり、暴力や不利益を被ったりすることなく、安全に性行為を行えること

■生殖の権利
子どもを持つかどうか、いつ、何人持つかを、責任を持って自由に決められる権利

このうち「医療とケアへのアクセス」に関しては、これまで緊急避妊薬が「医師の処方」なしでは入手できなかった点が問題になっていました。

今回、緊急避妊薬が薬局で購入できることになったのは、必要な人がより適切なタイミングで容易にアクセスできるようにするためです。医療機関への受診をためらっているうちに、緊急避妊のタイムリミットである72時間が過ぎてしまったり、休日や夜間の医療機関が対応できないタイミングで緊急避妊が必要になった人が困ったりすることを防ぐことが主な目的です。
 

日本における緊急避妊薬OTC化の経緯

日本における緊急避妊薬OTC化に向けた動きには、以下のような変遷があります。

2011年:ノルレボ錠承認/処方薬として発売開始
2017年:スイッチOTC化議論、見送り(時期尚早)
2020年:基本計画で処方なし検討を明記
2021年:市民団体要望による再検討開始
2022年:パブリックコメント実施
2023年:一部薬局で試験販売スタート
2024年:試験販売拡大(339薬局)
2025年:国会で議論継続/審査報告書で具体案提示

避妊用のピルが承認されるまでに長期間かかったのと同じく、スイッチOTC化も、その案が出てから今回の承認までかなりの時間を要しました。

緊急避妊薬を使うべき状況は? 正しい使い方・安全性・副作用

そもそも緊急避妊薬は、日常的な避妊に使用する薬ではありません。何らかの理由で、妊娠のリスクが高い状況が発生してしまった際、「その時だけ」妊娠のリスクを下げるために服用するホルモン剤です。

■妊娠のリスクが高い状況例
  • コンドームを使わなかった(相手が使ってくれなかった)/外れた/破れた
  • ピルを飲み忘れていたのに避妊をしなかった
  • 性的被害に遭った
リスクの高い状況が発生してから、72時間以内に緊急避妊用のホルモン剤「ノルレボ錠(レボノルゲストレル錠)」を1錠服用すると、約85%の確率で妊娠を回避できます。24時間以内が最も高い効果を示し、時間が経過するほど効果は低下します。そのため、できるだけ簡単に、タイムリーに緊急避妊薬が購入できることが重要です。

副作用はほとんどなく、血栓症リスクも上昇しません。薬の成分にアレルギーがある人を除き、ほとんどの人が安全に使用することができます。

ただし、緊急避妊薬の避妊効果は100%ではありません。繰り返すと失敗リスクが高まります。日常的には、低用量ピル(OC)や、ホルモン付加子宮内避妊具(ミレーナ・IUS)などで、確実な避妊をすることが重要です。残念ながら日本ではピル服用率が低く、まだ3%程度です。多くの人がコンドームなど「不確実な避妊」に頼っています。そのため、緊急避妊が必要になる状況も発生しやすい状況なのです。
 

「年齢制限なし」「親の同意不要」で10代でも入手容易に。面前服用に賛否も

従来は、医療機関で緊急避妊薬を処方する場合、10代への処方を親の同意なしで行うかどうかは、各医療機関の裁量に委ねられていました。​​​​​​自由診療のため保険証は不要ですし、親に通知がいくこともありません。本来は、何歳であっても本人の意志だけで処方を受けられる薬なのです。ただし、「性的同意年齢」が16歳に引き上げられたため、年齢によっては状況を詳しく確認されたり、法的サポートを提案されたりする可能性があります。

今回承認された薬局での購入には、「年齢制限なし」「親の同意は不要」という条件が明示されましたので、10代の学生さんでも、親の同意なく、本人の意思のみで購入することが可能になります。もちろん、保険証の提示も不要ですし、親に連絡がいってしまう心配もありません。薬剤の価格が高いため、薬局での購入費用が8000~1万円ほどになる可能性がありますが、費用面を除けば若い人も緊急避妊薬にアクセスしやすくなったと言えるでしょう。

ただし薬局での購入の条件として、研修を受けた薬剤師からのみ購入ができ、説明を受けた後に薬剤師の面前で服用することという「面前服用」の取り決めがなされました。

面前服用のメリットと役割としては、
  • 確実な服用確認
  • 転売防止
  • 服用までの時間短縮
などが挙げられますが、一方でプライバシーへの懸念から賛否が分かれています。
 

不同意性交や性被害を受けた場合は? 支援と公費負担について知っておくべきこと

万が一、不同意性交や性被害によって緊急避妊が必要になった場合は、警察への届け出やワンストップ支援センターへの相談も検討すべきです。

「事を荒立てたくない」という気持ちから、被害のことは伏せて、まずは緊急避妊だけしたいという方もいらっしゃるでしょう。緊急避妊においては、被害を受けたことを必ず言わなければいけないわけではありません。しかしワンストップ支援センターに相談すれば、緊急避妊にかかる費用が全て公費になるほか、性感染症検査も公費で受けられたり、その後の精神的なサポートを受けたり法律相談にもつないでもらったりすることができます。決して1人で抱え込まず、必要な支援につながっていただけることを願っています。

「性行為をするかどうか」だけではない、性と生殖に関する自己決定

性に関する「自己決定」は、性行為を行うかどうかだけではありません。妊娠を望むかどうか、望まない場合、自分にとって最適な避妊方法は何か、避妊方法をどう選びどう実行するかを、「自分で考えて選択する」ことが含まれます。

困った状況が発生してしまったときに備え、できるだけ早く緊急避妊にアクセスできるようにしておくとともに、日ごろからどのように避妊するのがより確実で、自分に適しているのかも、ぜひ考えておきましょう。

■参考
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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