スキルアップトピックス

災害時の避難所運営も「紙文化」はもう古い? デジタル化で防災や支援は劇的に効率的になる

災害時の避難所運営の課題に「チームみらい」の安野貴博氏が提言。マイナンバーやLINEを活用した情報管理のデジタル化で、運営コストを劇的に下げ、効率的な支援を実現する新しい防災の形とは? ※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

大規模災害時の避難所運営の課題に「チームみらい」の安野貴博氏が提言! ※画像出典:PIXTA

大規模災害時の避難所運営の課題に「チームみらい」の安野貴博氏が提言! ※画像出典:PIXTA

大規模災害時、避難所の運営にはかなりのコストがかかっている?「紙」に頼らない情報管理をすべきだと、「チームみらい」党首の安野貴博氏は提言します。

AIを起爆剤に行政や教育など各業界をアップデートするための方法論をまとめた未来戦略本『1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートする未来戦略』(安野貴博著)から一部抜粋し、大規模災害が起きた際の避難所運営コストを劇的に下げるためにDXが有効といえる理由について紹介します。
<目次>

マイナンバーとLINE活用

有識者にヒアリングを行ったところ、避難所の運営にはかなりのコストがかかっていることがわかりました。

情報管理は紙ベースで行われており、誰がどの避難所に入っているのか把握しきれない状況になることがほとんどだといいます。ここは明らかにデジタル化の余地が大きい領域です。

東京都副知事の宮坂氏は、マイナンバーを活用した避難所管理に注目していますが、それも1つの方策として賛成です。マイナンバー保険証にしている方には各個人の処方情報が紐づいており、必要な医薬品のスムーズな手配にも活用できます。

ここで事例を1つ紹介します。

デジタル庁は2024年、マイナンバーカードやLINEを使った避難所運営の実証実験を、神奈川県と協力して行いました。広域災害が発生したという想定のもと、模擬避難所を設置。被災者役の自治体職員や住民は、入所受付でマイナンバーカードを提示し、受付の担当者がそれを非接触式のカードリーダーにかざします。これだけで本人確認が完了。その結果、用紙に記入した場合の10分の1の時間で入所作業が終わることが確認できたそうです。

また、スマホのLINEミニアプリを使い、避難者が自身の健康状態や要望などを入力する実験も合わせて実施されました。デジタル化によって避難所の運営コストは確実に下がるのです。

ただ、デジタル庁の調べによると、紛失や悪用を恐れて「マイナンバーカードは持ち歩かない」という国民が4割を超えているので、現実問題として、災害時に「手元にない」「子どものカードまで持っていない」という人も多いかもしれません。

そのような状況を踏まえると、LINEや前述のアプリを避難所のチェックインに併用するのも手でしょう。自身の所在に関する情報をどこまで公開するかは選択できる形にしておけば、事情があって自分の居場所を知られたくない人のプライバシーも守りつつ運用できます。

防災の「民主化」とは?

これは一案であって、デジタル化ですべてがバラ色に解決したいわけではありません。とくに防災に関しては市民の声を受けて改善を重ねていくべきものです。

次世代の防災モデル構築の本質はある種の「民主化」だ、と私は考えています。

個々人が情報の取得・発信の主体となり、ときに自ら地域の人々を助けたり助けられたりしながら、情報を有機的に連携させ、住民みんなで避難のあり方や復旧の仕方を探っていく。それを支える手段としてテクノロジーを適切に使っていく、という考え方です。

これは「中央集権型」の指揮系統を否定する意味ではありません。災害対策本部には強い指揮権があります。全体を俯瞰し、一人でも多くの命を救うべく迅速に救援部隊を送り込み、一日も早くライフラインを復旧する。それは中央が果たすべき大きな役割です。

分散型情報インフラという手段は、相互補完の関係で運用してこそ強みを発揮すると思います。トップダウンのスピーディな支援と、ボトムアップの情報共有と助け合いの両輪——それをデジタル技術でつなぐことによって「誰も取り残さない」防災の道へと進んでいくことができるのではないでしょうか。
  安野 貴博(あんの たかひろ)プロフィール
AIエンジニア、SF作家。1990年、東京都生まれ。東京大学工学部システム創成学科卒。在学中、AI研究の第一人者、松尾豊氏の研究室に所属し、機械学習を学ぶ。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2016年にAIチャットボットの株式会社BEDORE(現PKSHA Communication)を創業。2018年にリーガルテックのMNTSQ株式会社を共同創業。2019年、「コンティニュアス・インテグレーション」で第6回日経星新一賞一般部門優秀賞を受賞。2021年、『サーキット・スイッチャー』で第9回ハヤカワSFコンテストで優秀賞を受賞し、作家デビュー。2024年に東京都知事選に出馬し15万票獲得。2025年1月「デジタル民主主義2030」発足、同年5月に「チームみらい」を結党し、参議院選挙(比例代表)で初当選、政党要件を満たす2%以上の得票率を達成。AIを活用した市民参加を軸に、現場と政策をつなぐ活動、双方向型のコミュニケーションを実践している。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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