『1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートする未来戦略』(安野貴博著)では、AIを起爆剤に行政や教育などの各業界をアップデートするための方法論について、2024年夏の東京都知事選で15万票を獲得した「チームみらい」党首で参議院議員の安野貴博氏が伝えています。
本書から一部抜粋し、災害時の「分散型」情報管理体制の構築によってもたらされるものと課題について紹介します。
都民が発信源となる情報網
実際に大規模な災害が発生した直後のことを想定し、1つの可能性として私が提案したいのが、「分散型」の情報管理体制の構築です。これは、スマホをもった都民それぞれが情報を取得し、共有する主体になるという考え方です。人口密度の高さは都ならではのリスクですが、見方を変えれば、「目の多さ」という強みにもなりえます。
具体的には、避難訓練アプリに発災時の情報提供機能を追加し、都民が実際に目の前で起きている状況、例えば「○○さんが半壊した家に閉じ込められている」「△△町で水道管が破裂して水が噴き出している」「××の崖が今にも崩れそうだ」といった情報(テキストや画像など)を、どんどん投稿していくのです。
東日本大震災の発生時、Twitter(現X)に投稿された情報が救助や安否確認に活用されましたが、イメージとしてはそれに近いといえます。
現在の技術でこれを実践しようとすると、情報が大量になり過ぎて収拾がつかなくなったり、誤情報やデマも紛れ込んだりしますが、それらはAIがさばきます。明らかな誤情報やデマを検知して排除する(優先度の低い表示にする)仕組みを構築することはできますし、大量の情報を、誰もが参照しやすい形で整理したり地図上に表示することも技術的には十分可能です。
そうしたシステムが構築できれば、余力のある地域住民が救援にいったり、必ずしも本部から指示が下りてくるのを待たずとも、緊急性の高いものは各地域の消防団員らが迅速にアクションを起こすことも可能でしょう。対応中の事案は即時反映され、中央は、特定の地域にリソースが集中しすぎたりしないよう、コントロールする役割を担います。
災害の発生時は社会的な不安の高まりからデマが拡散されやすくなりますが、自身がただ情報の受け手に回るのではなく、発信に主体的に参加することで、落ち着きを取り戻すことにもつながるでしょう。
全国への展開とコスト削減
こうしたアプリの開発には無論費用がかかりますが、東京都で1つのモデルをきちんとつくれば、少しカスタマイズを施すだけで他の自治体でもどんどん転用が可能です。社会的インフラとしてのアプリは広く使われれば使われるほど、利用者1人当たりの開発コストはどんどん下がっていきます。規模の小さな自治体が開発するのは予算的に厳しいかもしれませんが、比較的財源が豊かな東京が率先して開発を行うことには国の防災戦略としても大きな意味があると考えます。
選挙期間中、有権者の方々から「アプリに依存しすぎではないか」「インターネットや電力インフラが使えなかったらどうするのか」といったご意見をいただきました。もっともな指摘であり、各施策の実行性については、常に現実的な観点から検討を重ねなければなりません。
技術とインフラの連携
私の見通しとしては、まずインターネットについては、発災により通常の通信インフラがダウンしたとしても、ポータブル電源や発電機さえあれば、衛星通信の「スターリンク」経由での接続はできると考えています。能登半島地震の被災地で、スペースXとKDDIがスターリンク350台を無償提供し、各避難所のフリーWi-Fiとして開放し活用された実績がありますし、都もすでに導入を決定しています(スターリンクはビル街でつながりにくいという課題はあります)。
また電力インフラについては、太陽光発電や蓄電池等の複合的な整備を進めておくことにより、最低限の電力をまかなうことができます。ポータブル電源を個人で保有する人も増えていますし、少なくとも避難所までたどり着きさえすれば、多くの問題はクリアできると見ています。当然、避難所ではWi-Fiが利用できるよう通信インフラ・電力を優先的に復旧させる手当てが必要でしょう。
防災をめぐる議論のなかでは「アプリ云々以前に、都市計画のレベルから備えを進めておかなければならない」という意見も出ましたが、まさにその通りです。
テクノロジーの活用も、その基盤となるインフラがあってこそ。都市計画の段階から、消防活動困難区域の解消や災害時の避難道路確保など、普段から災害に強い都市インフラの整備をしていくことが重要なのは言うまでもありません。
安野 貴博(あんの たかひろ)プロフィール
AIエンジニア、SF作家。1990年、東京都生まれ。東京大学工学部システム創成学科卒。在学中、AI研究の第一人者、松尾豊氏の研究室に所属し、機械学習を学ぶ。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2016年にAIチャットボットの株式会社BEDORE(現PKSHA Communication)を創業。2018年にリーガルテックのMNTSQ株式会社を共同創業。2019年、「コンティニュアス・インテグレーション」で第6回日経星新一賞一般部門優秀賞を受賞。2021年、『サーキット・スイッチャー』で第9回ハヤカワSFコンテストで優秀賞を受賞し、作家デビュー。2024年に東京都知事選に出馬し15万票獲得。2025年1月「デジタル民主主義2030」発足、同年5月に「チームみらい」を結党し、参議院選挙(比例代表)で初当選、政党要件を満たす2%以上の得票率を達成。AIを活用した市民参加を軸に、現場と政策をつなぐ活動、双方向型のコミュニケーションを実践している。