東京で長く働いていた新井雄己さん(35歳)は、地域おこし協力隊の制度を利用して2022年5月~2025年3月の3年間、沖縄県南西の石垣島に移住した。現在は地元の群馬県でキャリアコンサルタントとして活動しているが、なぜ沖縄の離島に移住し、その後なぜ地元群馬に帰ることにしたのか聞いた。
移住のきっかけは
――沖縄の石垣島に移住した経緯について教えてください。「2021年、すでに石垣島へ移住していた知人に会いに行くため、初めて現地を訪れました。当時はコロナ禍で、都会から離れてリモートワークを活用して働く人が増えていたこともあり、私自身も東京から離れて自然豊かな環境の中で人生を見つめ直したいと思うようになりました。東京での仕事や収入に不満があったわけではないのですが、どこか精神的には満たされていなくて。“このままでいいのか?”という問題意識はずっとありました。そんな中、偶然その時期に石垣市が地域おこし協力隊を募集していることを知り、環境を変えてみようと思い切って応募しました。無事に合格し、2022年4月に東京から移住することになりました」(新井さん、以下同)
――現地ではどのような仕事や活動をしていたのでしょうか?
「石垣市が運営する公営塾の講師として、島の高校生に向けてプロジェクト活動などを通じた育成支援をしていました。高校生たちと一緒に島の地域課題を解決する活動に取り組み、活動内容を発表し合う大会では、全国大会に出場して表彰されたチームも出ました。これらの経験を大学の総合型選抜入試でアピールし、高校生の進路決定までをサポートすることを3年間やってきました」 東京で企業向けの組織開発をする仕事をしながら、キャリアコンサルタントとして大学生の就職支援も経験していた新井さんにとって、まさに自分の経験を離島の高校生の教育活動に生かすことができ、大きなやりがいを感じていたようだ。
しかし、移住した沖縄の地で、有意義な生活を送っていた新井さんが、3年の任期を迎えた際に下した次なる進路は、地元の群馬に戻って教育活動をするという決断だった。
石垣島を離れたワケ
――石垣島を3年で離れると決断した理由について教えてください。「“もっと挑戦したくなった”というのが一番の理由です。石垣島ではいろいろな方々のサポートを得て、公営塾での教育活動でも一定の成果を出すことができました。小さな島ということもありチャレンジはしやすかったのですが、この活動を広げて、もっと多くの方に喜んでほしいと思うと、島の中だけでは限界があると感じました」
――なぜ東京ではなく、地元の群馬に帰ることにしたのでしょうか?
「東京では企業向けの仕事を中心にしていましたが、石垣島で高校生の教育に携わる中で、改めて自分は若者の成長を支援することが好きなんだと気付きました。そして、すでに多くの機会にあふれている東京ではなく、自分が生まれ育った群馬に戻り、ゼロからその機会を作っていきたいと思うようになりました。確かに東京に戻った方が仕事のチャンスは多いはずですが、石垣島で地元の高校生を支援した経験から、私自身の地元である群馬の力になりたいと思うようになったんです」
石垣島に移住する前の新井さんは、東京で得られる多くの機会を生かし、収入などを含めたリターンに働きがいを感じていた。しかし石垣島で高校生の教育活動という地域貢献を通じて、機会の少ない地元の群馬で自ら機会を作り出し、地域に貢献したいと考えるようになったようだ。
――現在の群馬での活動とこれからのビジョンを教えてください。
「現在は群馬にある大学でキャリア講座の講師をしながら、地元企業の人材育成や採用のコンサルティングをしています。地元の大学生を育てると共に、彼らの就職先となる地元企業にも人材を育成する力をつけてほしいと思い支援しています。最近群馬も都心からの移住先として注目されているようなので、そこに “教育なら群馬県”や、“大人も子どもも街も元気”といった価値をつけていきたいと思っています。1人でも多くの方が、自らの今と将来を主体的に考えられるよう、キャリア教育の機会や、群馬ならではの企業研修プログラムを広げていきたいと考えています」 そんな志を持つ新井さんは、現在地元の商工会や群馬県庁でのセミナーで群馬の経営者向けに人材育成に関する講演をしたり、SNSを通じて「一歩ふみだすおてつだい」の思いで個人や組織がよりよく働くための情報発信をしている。
東京で働きキャリアを磨き、その経験を沖縄の離島という地方で生かす経験を通じて、最終的に自分の地元に貢献したいという志を見つけた新井さん。キャリアは1つの環境や仕事で完結させるのではなく、時に変化を加えてみることで新たな発見があることを教えてくれる事例だ。
新井さんはたまたま移住が転機となったが、移住だけでなく今の自分にどんな環境や経験が必要かを日々考え、時には勇気を持って進んでみることが大切なのだろう。