日本を代表する中国ウォッチャー・近藤大介氏の著書『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』から一部抜粋し、多くの中国人が日本を目指す「意外な本音」について紹介する。
日本は「最高の逃避地」
中国での生活がここまで大変になると、Z世代の一部は海外へ逃げ出すことを考える。なかでも、いま最も注目を集めているのが日本への移住だ。この現象を「潤日(ルンリー)」と呼ぶ。「潤学(ルンシュエ)」(中国から逃げるための留学)の派生語で、直訳すると「日本への逃亡」。なぜ中国人は日本を目指すのか? その主な理由は、以下の8点だ。
①距離的に近い……北京や上海から東京や大阪まで、わずか3~4時間のフライトである。これは中国的感覚で言えば、「国内旅行」に等しい。
②文化的に近い……同じ黄色人種で、漢字文化圏で、米欧などに較べたら感覚的に近いと感じる。
③物価が安い……円安元高の影響や、中国のこれまでのマンション高騰などを鑑みれば、日本は安く感じる。
④社会が安全……これには二つの意味がある。治安がよいということと、民主国家で政治的にローリスク社会だということだ。
⑤規制が緩い……500万円の投資で容易に取得できる「経営管理ビザ」や、やはり少子化の影響で取得が容易な「留学ビザ」などを取得して、長期滞在できる。
⑥生活が快適……町が清潔で、スーパーやコンビニなどが発達しているため、便利で快適な生活が送れる。
⑦土地が買える……社会主義国の中国は、憲法(第十条)の規定があり、都市部の土地はすべて国家が所有する。だが日本は、外国人も含めて土地を個人が所有できる。
⑧中国語で生活できる……在日中国人が増加する(2024年末で約87万人)につれて、日本は「中国語だけで生活できる国」になりつつある。
「好き」だから来る訳ではない
以上だが、要は、日本は中国人にとって、世界中を比較してコストパフォーマンスがベストの「逃避地」なのである。換言すれば、「日本が好きだから」日本へやって来るとは限らないということだ。もちろん、反日感情の強い中国人は来ないだろうが。
また、アフリカや中東からヨーロッパを目指す移民・難民や、中南米からアメリカを目指す移民・難民のように、「貧しいから日本を目指す」わけでもない。
むしろ平均的な日本人よりも多くの財産を所持している中国人が多い。東京・お台場の高級タワーマンションなどを、中国人が「爆買い」していることは、そうした事実を物語っている。
受験戦争からの教育移住
中国の受験地獄があまりに熾烈(しれつ)だからと、「一人っ子」に日本で教育を受けさせようという親も増えている。2025年の春節(旧正月)の時期、母校の東京大学本郷キャンパスへ久々に行って驚いた。数十分に一度、大型観光バスが正門前に停まり、なかからぞろぞろと中国人の親子たちが降りてくるのだ。
彼らは正門から入って、安田講堂前広場まで100mほどを歩きながら、「こんな大学に入れたらいいね」などと言い合って、記念写真を撮っている。
何人かの親子に話を聞いたが、「子供には日本の大学へ行かせたいので見学に来た」と語っていた。「子供に日本で教育を受けさせることが、中国でブームになっている」と述べた親もいた。
一方、受け入れる日本の大学側も、一部のエリート校を除けば少子化で学生の定員割れが進んでいるため、留学生の増加を望んでいる。
日本政府も2008年に「留学生30万人計画」を策定し、2019年に達成している。
近藤 大介(こんどう だいすけ)プロフィール
1965年生まれ。埼玉県出身。東京大学卒業。国際情報学修士。講談社入社後、中国、朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとする。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て、講談社特別編集委員。Webメディア『現代ビジネス』コラムニスト。『現代ビジネス』に連載中の「北京のランダム・ウォーカー」は日本で最も読まれる中国関連ニュースとして知られる。2008年より明治大学講師(東アジア論)も兼任。2019年に『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)で岡倉天心記念賞を受賞。







