亀山早苗の恋愛コラム

「もう地獄!」7時、12時、6時に食卓に陣取る定年夫。“家に帰りたくない妻”の「口実」とは

夫が定年し妻はまだ現役。それなのに夕飯を作るのは相変わらず妻。定年前、週の半分は夫がいなかったのに、今は「おなかがすいたから早く帰ってきて」と連絡が来る……。夫の定年後、「家に帰りたくない」妻たちが増えている。※サムネイル画像:PIXTA

亀山 早苗

亀山 早苗

恋愛 ガイド

どうして男女は愛し合うのか、どうして憎み合うのか。出会わなくていい人と出会ってしまい、うまくいきたい人とうまくいかない……。独身同士の恋愛、結婚、婚外恋愛など、日々、取材を重ねつつ男女関係のことを記事や本に書きつづっている。

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家に帰りたくない妻たちの気持ちとは(画像:PIXTA)

家に帰りたくない妻たちの気持ちとは(画像:PIXTA)

夫の定年退職後、妻たちが恐れるのは「四六時中、夫と一緒にいなければならないのか」「三度の食事を作らなければいけないのか」など、「夫とずっと一緒でいること」である。今までは夫は会社、妻はパートもしくは仕事と家庭と棲み分けができていた。少なくとも、週末だけ「我慢」すればよかったのに、これからは違うと妻たちは身構える。

もちろん、夫が定年後も仕事を続けたり、社交的で外に出ていく人なら問題はない。家にこもるようになって妻だけが社会との扉とばかりに頼られるのが困るのだ。約60年も生きてきて、「自分の人生」が夫に邪魔されるのは耐えられないと妻たちは言う。

帰宅拒否の妻

「夫は60歳で定年、その後は嘱託で働くかと思いきや、なんとそのまま『少しのんびりしたい』と。1年前から自宅にいます。ほとんど家から出ないんです。何をしているのか、私はまだ定年になっていないので分かりませんが……」

眉間にしわを寄せながらそう言うタカコさん(58歳)。彼女も60歳で定年退職を迎えるが、その後も週5日働くつもりだ。

「私は帰ってから夕飯を作るんですよ。おかしいでしょ、これ。共働きのときだって私の負担は大きかった。あなたは家にいるんだから、夕飯くらい作ってよと言ったら『作れない』と。じゃあ、もういっそ食事を別にしましょ、あなたはお弁当でも買えばいいわと言ったら、それは困るって。下ごしらえくらいはしておいてと、半年がかりでいろいろ教え込みました。少しはできるようになったんですが、なんだか私はだんだん気持ちが落ちてきて……」

それまでは毎日、食事を作る必要はなかった。子どもたちが巣立ってからの5年間は、夫が食事はいらないと言った日は、タカコさんは近所のカフェで食べたり同僚と居酒屋に寄ったりしていたのだ。ところが夫が定年になってからは、タカコさんが遅くなるのをあからさまに嫌がるようになった。

「あなただって働いているときはそうだったでしょと言っても、夫と妻は違うなんて言い出すわけですよ。下ごしらえを覚えてからは、私が帰るのを待ち構えている感じ。とうとう疲れ果てた私は、帰宅拒否症みたいになってしまいました」

自分の自由は確保したい

家に帰ろうとすると具合が悪くなる。電車を途中下車して一人で居酒屋に寄ると急に元気がでる。夫にはLINEで「残業で遅くなるから、適当に食べてて」と送れば、あとは「知ったことか」と開き直るようになった。

「さすがに夫もおかしいと思ったのか、浮気でもしているのかと言い出して。そうじゃない、今まで週の半分はあなたがいなかったから、私は好きなようにしてきた。友達と最終の映画を観て食事をして帰ってきても、あなたはまだいないことが多かった。先にあなたが帰っていても何も言わなかったでしょ。でも今は少し遅くなると、『おなかがすいた、早く帰ってきて』と連絡がくる。子どもじゃないんだから、もういいかげん、私を家事から解放してほしい。せめて週に半分は好きにさせてと言いました。すると夫は『オレの妻でいるのがそんなに嫌なのか』って。そういうことじゃないんですけど分かってもらえない」

せめてもの抵抗として、今も彼女は週の半分は遅く帰っている。文句を言う夫をかわすのは面倒だが、自分の自由は確保したいのだ。

介護を言い訳に帰らない日も

夫がストレスと言い切るマミさん(63歳)はこう言う。

「私は50代半ばで体を壊してパートの仕事を辞めざるを得なくなったんです。そのうち一人娘が結婚して家を出て、夫と二人きりの生活になりました。3年前に夫が65歳で完全リタイア。それからは地獄の日々でしたね。夫は朝7時、12時、6時には食卓に陣取って食事ができるのを待っている。昼なんて簡単なものにしたいから、夏だったら『そうめんでいい?』と聞くと、それじゃ栄養が足りないと。私が買い物に行こうとすると、どこへ行くの、娘と会うときも一緒に行くとついて歩こうとする。ひたすら夫がストレスになりました」

2年ほど前に、一人暮らしの叔母が入院、手術を受けた。退院はしたものの、助けがないと日常生活が難しい。マミさん以外、親族がいないので介護の手続きをし、マミさんも足しげく通うようになった。

「かつて叔母にはさんざん世話になっているんですよ。娘が大学生のころに夫が病気で倒れ、経済的にきつかったときもさらりとお金を貸してくれて。だから叔母の世話といえば夫も何も言えない。それをいいことに今では1日おきに叔母を訪ねています。叔母も意識はしっかりしているので、『今日はヘルパーさんが来てくれるから、あなた、今のうちに美容院にでも行ったら』『映画でも観てらっしゃいよ』と言ってくれる。叔母のところで夕飯を一緒に食べて、あれこれおしゃべりしていると遅くなるんですが、『ちょっと叔母の体調がよくないので、もう少し見守ってから帰る』と夫に連絡すればいい」

人と交わろうとしない夫

叔母の介護をするようになってから、マミさんは精神的に楽になったという。夫は仕方がないからだろう、少しずつ自分の食事を作るようになってきた。

「夫は早朝の散歩はするんです。私にも付き合えと言ったけど、じゃあ、朝食は誰が作るのと言うと誘わなくなった。でも、それ以外、ほとんど外にも出ないし、誰とも会話しないんですよ。つまらなくないのかなと思いますが、そう言うと、じゃあ一緒にどこかへ行こうと言い出すのが分かっているから言わないでいますけど」

人と交わることがどれほど脳を活性化させるか、マミさんは時々世間話のように夫に言ってみるが、夫は新たな友達を作ったり趣味を始めたりする気はなさそうだ。

「しばらくしたら、叔母の家に私だけ越そうかなとまで思っています。そんな形の老後別居もいいんじゃないですかね」

冗談とも本気ともつかない顔で、マミさんは言った。
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