『ふつうの会社員が投資の勉強をしてみたら資産が2億円になった話』(斗比主閲子著)では、株式投資の人気ブロガーがたどり着いた「富裕層になれるお金の方程式」について解説しています。
今回は本書の一部を抜粋し、日本において給与が上がりにくい状況下で、自らの市場価値を高める方法を紹介します。
搾取される高品質な労働
会社員であれば給与明細をチェックし、個人事業主なら確定申告を見直して過去の収入を確認すると、思った以上に収入が増えていないことに気付く人が多いかもしれません。実際、日本では勤労者の平均給与は30年前から横ばいどころか下がっていて、ここ数年でようやく上昇傾向が見えつつある状態です。
海外からの観光客が日本で爆買いをしていたり、反対に日本人が海外旅行をすると物価の高さに驚いたり、日本は他の先進国と比べて貧しくなっているようです。
どうして日本の賃金が上昇しないのか。様々な議論がなされていますが、日本国内で提供しているサービスや商品の質・量に対して、もらっている収入が低いというのは考えられます。
例えば、コンビニエンスストアにおけるサービス品質は日本が圧倒的に高いです。他の国のコンビニでは、もっと店員さんは無愛想ですし、店員同士で雑談していてお客さんを放置しているなんていうことがザラにあります。
日本で当たり前に売られている生活雑貨や衣料品も、同じ品質のものは他の先進国では2倍以上の価格です。100円ショップのダイソーは世界展開をしていますが、100円で商品を購入できるのは日本ぐらいのもので、他国では200円が基本です。
提供しているサービスや商品の質に対して、対価が相対的に低いのであれば、売上(収入)が低くなって当然です。
「人件費が低いのは企業が従業員に適切に還元していないからではないか?」という話もありますが、労働分配率(企業が生み出している付加価値に対してどの程度人件費が支払われているかを示す指標)を他国と比較すると、確かに先進国の中では低い水準であるものの、アメリカと同程度です。
一方、アメリカ人の平均年収は日本人の1.5~2倍以上高いのが現状ですから、日本ではサービスや商品に対する対価が低く、なかなか物価が上がらないことが賃金上昇に繋がっていないことが分かります。
その真面目さ、危険です
では、なぜ質の高い商品やサービスを提供していても、それに見合った対価を受け取れないのでしょうか。理由は、競争が激しいからです。自分以外にも同じように質の高い商品やサービスを提供する人がいたら、競争が発生し、高い対価は受け取れません。日本でダイソーが商品単価を200円に値上げしたら、セリアやキャンドゥに顧客が流れるでしょう。外食産業で、ラーメン一杯を800円から1500円に値上げしたら、お客さんは他のラーメン店に行くかもしれません。
すでに過剰品質のサービスや商品が提供されている日本では、値上げをしようにも、消費者の要求水準が高すぎて、値上げができないのです。
また、日本の労働者は賃金が安くとも労を惜しみません。例えば、ダイソーの店員さんが「そこにないならないですね」と在庫の状況を把握していないことが珍しい事例として取り上げられますが、海外の低単価の小売店舗であれば、そこまで丁寧なサービスを提供しないのは普通のことです。日本では当たり前であっても、他の国ではより多くのお金を出さないと得られないものなのです。
賃金に見合わない過剰な労働を提供するのが当たり前になると、賃金は上昇しにくくなります。企業からすると、安い賃金でも高いサービスを提供してくれる人がいるなら、賃金を上げる必要性がないからです。
たまに、「従業員も経営者目線を持って働くように」と主張する経営者がいますが、高い能力の従業員を安く使い倒したいだけの方便です。日本以外の国で同じことを言ったら、「経営者レベルの仕事を求めるなら、経営者レベルの賃金を払ってほしい」と返されることでしょう。
このように過度に競争が激しい日本で、賃金を上げる方法は一つです。自分の希少性を上げることです。希少金属である金は1kgで数百万円ですが、当たり前にある鉄のスクラップは1kg100円もしません。数が少なく、珍しく貴重なものに高い値段が支払われるのは、貴金属でも労働の対価でも同様です。
希少性を簡単に上げるためには、自分の提供する商品やサービスを高く評価してくれる環境に身を置くことが重要です。日本の寿司職人や美容師が、アメリカやシンガポールに移住し、年収を2~3倍に上げたという話を聞いたことはないでしょうか? 海外で和食がブームになり、アジア系アイドルの人気が上昇する中、海外における寿司職人や美容師のニーズは非常に高まっています。日本ほど競争が激しくない国に行けば、同じ品質の商品・サービスでも高い賃金を得ることが可能です。
貧困化を抜ける唯一の道
ただ、「外国人相手に仕事をするのは難しい」「いきなり海外なんて行けない」と思う人も多いですよね。もし、日本国内で日本人を相手に仕事をして賃金を上げたいのであれば、技能の掛け算をすることがお勧めです。
例えば、イラストレーターの技能と工業製品に対する知識があれば、一般に高収入な工業デザイナーの仕事に就ける可能性が生まれます。営業の人材が経理の知識を身に付ければ、会社の利益を考えた提案が可能になり、営業成績が良くなることもあるでしょう。
技能の掛け算のメリットは、言葉は悪いですが、多少中途半端な知識・技能であっても、掛け合わせれば他の人との差別化が可能なことです。経理であれば簿記1級(合格率10%)が必要でも、営業なら簿記2級(合格率20%)で十分です。
私自身も、仕事に役立つお金の知識(会計・財務・税務)を身に付けつつ、合格率が高いことで有名な(=簡単な)ビジネス実務法務検定で法律の知識を学び、最近ではITの勉強もしています。それぞれは卓越したものでなくても、技能の掛け算で高い収入を維持したいからです。
賃金が上がらなくて悩んでいる人は、自分が今、何の技能を身に付けたら、他の人より評価されるか考えてみましょう。思い浮かばない人は、自分と年代の近い同業種の話を聞いたり、SNSをフォローしたりすることもお勧めです。どんな自己研鑽をしているか知るのも参考になるはずです。
斗比主閲子(とぴしゅ えつこ)プロフィール
1976年生まれ、旧帝大卒、会社員、既婚、子どもあり。という設定のブロガー。