その中でも大人の感性を刺激する、学び多き3つの展覧会に注目。それぞれの内容、そしてズバリ「何がすごいのか」もまとめました。掲載順は終了日が近いものからです。
まだまだざわつく日本美術
2025年8月24日(日)までサントリー美術館 作品を見たときの感動、衝撃など言葉にならない“心のざわめき”は、作品をさらによく見るきっかけとなる。そんな「心がざわつく」作品を集め、展示方法にこだわりぬき、もっともっと「作品を見たい!」という気分にさせてくれるのがこの展覧会。2021年に開催され、好評を得て今回は第2弾となります。
会場の展示は、「ぎゅうぎゅうする」「おりおりする」「らぶらぶする」「ぱたぱたする」「ちくちくする」「しゅうしゅうする」という、ネーミングだけでもざわつく6つの構成。 「ぎゅうぎゅうする」のエリアでは、15種類もの宝物が“ぎゅうぎゅうに”描かれた八角皿「色絵寿字宝尽文八角皿」(鍋島藩窯 一枚 江戸時代 17世紀末~18世紀初)や、新しい時代を迎えた明治時代の「車」と名のつくものを“ぎゅうぎゅうに”詰め込んだ車づくしの絵「志ん版車づくし」(幾英 大判錦絵 明治時代 19世紀)。祭りの風景で約2000人もの人々が“ぎゅうぎゅう”している2隻の屏風・重要文化財「日吉山王祇園祭礼図屏風 」(土佐光茂 六曲一双 室町時代 16世紀)などが、細かい解説とともに展示されています。 一方「おりおりする」エリアの主役は屏風。普段美術館などで展示されている屏風は美しく均等にジグザグ折り曲げられていますが、本来の役割はパーテーションなので、日常生活ではもっと自由自在に折られていたはず。そこで今回はわざと不定形で展示し、描かれた絵を新たな見方で楽しむことができます。来場者が自由に折って試せる、ミニサイズの屏風もあり。
ほかにも恋愛模様が表現されている作品を集めた「らぶらぶする」、見れば見るほどその超絶技法に驚かされる津軽こぎん刺しを展示した「ちくちくする」など、意外な分類方法で並ぶ芸術作品に新鮮な驚きが生まれること間違いなしです。
【今回ココがすごい!】
・「ぎゅうぎゅうする」の展示会場にある「日吉山王祇園祭礼図屏風」は2024年に重要文化財に新指定。サントリー美術館では初お披露目となります。
(作品は全てサントリー美術館蔵)
<DATA>
まだまだざわつく日本美術
オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより
ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠
2025年9月7日(日)まで三菱一号館美術館
印象派、ポスト印象派の名作を所蔵しているフランス・オランジュリー美術館が、初めてルノワールとセザンヌ2人だけに焦点をあてて構成した世界巡回展。オランジュリー美術館に加え、印象派の殿堂・オルセー美術館からも作品群が来日しています。
ルノワールの代表作「ピアノの前の少女たち」や、セザンヌの代表作「画家の息子の肖像」など、2人の巨匠による肖像画、静物画、風景画が展示。そして、2人から影響を受けたピカソの作品も加え、52点もの作品を鑑賞できます。 20世紀初頭にはこの2人の芸術家を並べて論じることが多くあったそう。肖像画、静物画、戸外制作といったジャンルに分けて、2人の作品が同じ空間に展示されている様子は見応えバツグン。林や裸婦、花といった同じモチーフを描いても、こうも異なるものかとその違いを堪能でき、それぞれの個性を再確認できるのがこの展覧会の醍醐味(だいごみ)です。 ちなみに同時代に活躍した2歳違いの2人。実は交流も深く、ルノワールが肺炎にかかってしまったときにはセザンヌと彼の母親が献身的に看病するなど、まさに家族ぐるみのお付き合いがあったそう。そんな意外なほっこりエピソードも知ることができ、大芸術家に親近感も覚えました。
【今回ココがすごい!】
・オランジュリー美術館とオルセー美術館の協力により、ミラノ、マルティニ(スイス)、香港を経て来日する世界巡回展。三菱一号館美術館が日本唯一の会場です。
<DATA>
オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより
ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠
絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ
2025年9月23日(火・祝)まで静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
古美術の中の神さま、仏さま、そして信仰深い人々の姿に注目する絵画の入門展。やまと絵に描かれた高貴な人々、仏画、仏教や道教にまつわる人物を描いた道釈画(どうしゃくが)、禅の悟りを得るきっかけを描いた禅機図などを鑑賞できます。 仏教の重要人物や、登場人物たちがとるポーズの意味。どんな場面が描かれているのかなど、神仏と人物が表されるときの約束事や背景にあるストーリーなどを分かりやすい言葉で解説しています。この展覧会を見た後は、神さま仏さま関連の芸術作品の知識が深まり、神社仏閣などでさらに充実した時間が過ごせそうです。 個人的には、聖徳太子を巡るさまざまな奇跡を描いた重要文化財「聖徳太子絵伝」(第一幅 絹本着色 鎌倉時代 14世紀)に衝撃。空中を飛ぶなどポップで躍動感あふれる意外な太子の姿が印象に残りました。 学問の神様として知られる天神さま・菅原道真の、大宰府に流され怒りに満ちた表情を描いた「綱敷天神像」(江北元忠 紙本墨画淡彩 一幅 室町時代 16世紀)も相当な迫力! 一見の価値ありです。
【今回ココがすごい!】
・前回の大阪万博(1970年)で展示された国宝「禅機図断簡 智常禅師図」が前期(7月5日(土)~8月11日(月・祝))に登場。
・前期(7月5日(土)~8月11日(月・祝))と後期(8月13日(水)~9月23日(火・祝))でほぼ全ての作品が入れ替わります。
<DATA>
絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ
以上、「2025年夏、大人の感性を刺激する都内の注目美術展3選」ご紹介しました。夏休み期間中ということもあり、やさしい言葉で解説した子ども向け資料などが無料で配布されているのもうれしい点。美術への敷居が低くなっているので、芸術鑑賞へのはじめの一歩を踏み出すのに、うってつけの夏です!