もはやサッカー界のレジェンドとして認められている三浦選手であるが、58歳という年齢にもかかわらずプロとしてプレーし続ける姿にさまざまな意見がある。通常多くのプロスポーツ選手は20~30代で競技人生を終える中で、50代まで現役を続けているのは異例とも言える。
果たして体力と、契約してくれるチームがある限り現役を続けることがいいのか、もしくはその後のキャリアなども考えて引き際を見極めて早めの引退をすべきなのか。
今回は“ライフキャリア”の視点から、過去に引退したプロスポーツ選手の事例を参考にしながら、プロ選手の引退のタイミング、そしてビジネスの現場にも通用するキャリアの生かし方について考察してみたい。
29歳という若さで現役生活を終え、新たな可能性を見いだした中田英寿
早いタイミングで引退したプロサッカー選手としてすぐに浮かぶのは、日本代表として活躍した中田英寿氏だろう。2006年のドイツ・ワールドカップ最終戦のブラジル代表戦後、ピッチに倒れ込み、天を仰いだシーンは有名である。当時、29歳という年齢と海外での素晴らしい実績から「引退はまだ早過ぎる」と感じたファンも多かったはずだ。引退後は世界を放浪する旅に出て、帰国後は指導者ではなく実業家としての道を歩み始めた。現在もJAPAN CRAFT SAKE COMPANYの代表として日本文化を世界に広める活動をしている。
現役時代から菓子メーカー・東ハトの非常勤執行役員を務めたり、チャリティーイベントを主催したりするなどサッカー以外の活動にも精力的で、多彩な才能を発揮していた中田氏にとっては、30代という人生にとって仕事に全力投球できる貴重な時間を、ビジネスの分野に使うという決断は合理的であるとも言える。
それは彼自身が日本代表としてワールドカップに3大会出場し海外の有名クラブでもプレーしたことで、「サッカー」という競技に対して1つの区切りをつけ、別分野に自分の可能性を早期に見いだすという自律的なキャリア意識の表れであると、筆者は感じる。そうすることで、次なるキャリアで成功する時間と余力を得たことになり、実際に成果も出している。
プロスポーツ選手として、競技への区切りと、現役以外での自分の可能性を見いだそうとする姿勢は、セカンドキャリアを築く上でとても大切と言えるだろう。
45歳まで現役を続け、多くの若手選手の手本となったイチロー
野球界ではイチローが2019年に45歳で引退を発表している。プロ野球選手としてはかなり長い現役生活であったが、最後までメジャーリーグというトップレベルの舞台でプレーし続けた。年齢的にはそれまでにも引退を考えてもいいタイミングがあったはずだが、最後まで現役選手でいることにこだわった点ではサッカーの三浦選手とも通じるものがある。2人とも指導者として若手を育成する道に進むこともできるが、現役選手としてその背中を見せ続けることで、チームに与える影響は大きい。
このベテラン選手と共にプレーするという体験は、プロスポーツ選手だけではなく、ビジネスの現場でも若手社員の成長には大変価値がある。最近、筆者が講師を務める企業研修でも、定年後に再雇用された60代のベテランエンジニアと20代の若手社員が一緒に受講することがある。ジェネレーションギャップも当然あるようだが、60代と20代の社員がフラットにコミュニケーションを取りながら、技術を教えてもらっている様子を見ると、ベテラン社員の現場での存在価値を感じる。
プロスポーツはシビアな世界なので、企業のように再雇用の制度があるわけではないが、イチローやカズのように経験豊かで、長く現役を続けることができるのであれば、それは本人だけでなく人材育成の面でチームにとってプラスの側面が大きいのだろう。
どの分野でも大切なのは引退のタイミングよりも、自身の可能性の生かし方
こうして見ると、プロスポーツ選手にとってベストな引退のタイミングというのは個別性が高く難しい。今回事例に挙げたのは各競技のレジェンドクラスの選手で、自分で引退のタイミングを選べる選手はきっと少数派なのだろう。けがが重なりプレーができなくなったり、所属チームとの契約終了で現役を継続したくても引退せざるを得なくなったりするというのが現実であろう。これはスポーツ選手に限らず会社員でも同じはずだ。ただし、キャリアにおいて大切なのは自分の可能性を客観的に見いだし、その生かし方を考えることである。どうしてもその競技や専門分野の道1本で進んできてしまうと、その道でしか自分は活躍できないと思い込んでしまう。そこは中田選手の姿勢を見習って、他分野の可能性も常に見いだしてほしい。
逆にベテランになれば、当然若い頃よりもパフォーマンスは落ちるので、常にプレーや結果でチームに貢献できることは少なくなるだろう。しかしベテランだからこそ、チームに与えることができる影響や貢献の仕方もあるはずなので、その組織に所属していたとしてもそこは常に意識して、自分にできるチーム貢献を目指してもらいたい。