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【大阪万博・診療所医師が現地レポ!】実際どうなの? 万博の医療体制。診療所で勤務して見えたこと

【医師が解説】大阪・関西万博が盛り上がりを見せる中、来場者の安心・安全を支える会場内の診療所。実際に診療所勤務をして分かった現地の医療体制や緊急時の対応、医療スタッフの連携の様子を、医師目線でレポートします。

狭間 研至

狭間 研至

医師 / 癌 ガイド

大阪大学医学部卒。外科医の傍ら、現在、ファルメディコ株式会社ハザマ薬局の代表取締役をしております。外科医をしながら薬局運営を行っている経験から、病院の外での患者さんの悩みや行動を目の当たりにしております。医学的な情報を分かりやすく解説し、医療と患者さんの橋渡しを行っていきたいと思っております。

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大阪万博リング北診療所

筆者が診療にあたった万博会場内の「リング北診療所」。サテライト診療所の1つのため大きな看板はありませんが、他の診療所とも連携しながら対応にあたります(筆者撮影)


連日、盛況ぶりが報じられている大阪・関西万博。事前の不安をよそに、今や多くの来場者で賑わいを見せています。そんな会場内に、実は3カ所の診療所があることをご存じでしょうか? 先日、私自身がその1つで勤務する機会を得たので、現地の様子をお伝えしたいと思います。
 

後方支援病院としても体制を作り、万博会場の診療所の勤務に参加!

診療所前にて

医師のユニフォームは木の繊維で作られたエコなものでした。着心地もよかったです(筆者・左)


こんにちは。医師の狭間研至です。私は普段、大阪市西成区にある病院で理事長・院長として診療に携わっています。会場の夢洲からそれほど遠くないため、大阪府から「万博の後方支援病院」としての協力依頼を受け、体制を整えています(幸い、今のところ会場からの救急搬送はありませんが……)。そんな中、大阪府病院協会からの要請を受け、万博診療所での勤務にも参加することになりました。
 

会場内には3つの診療所が設置。診療開始前にはオンラインミーティングも

万博会場内には、3カ所の診療所が設置されています。メインの「西ゲート診療所」には常時2名の医師が勤務。それ以外に「サテライト診療所」が2つあり、それぞれ医師1名が配置されます。

私が担当したのは「リング北診療所」。午前9時から午後4時半まで、看護師さん・事務スタッフ・ボランティアと一緒に診療を行いました。

診療開始前には、3カ所の診療所をウェブカメラでつないでオンラインミーティングが開かれ、入場者数の予想や当日の暑さ指数(WBGT)などの情報共有が行われました。

また、会場内には診療所とは別に応急手当所が5カ所設置されており、看護師が常駐しています。スタッフが会場を巡回し、体調不良者がいれば応急手当所へ誘導し、必要があれば近隣の診療所へ連絡が入る、という運用です。
 

念のための医療体制、それでも「緊急」は突然に

診療時間に入ると、場の空気が引き締まります。私もまず、診察室や処置室の動線や備品をチェック。

装備としては、夜間・休日診療所と同程度で、AEDなど救命処置にも対応できる準備はありますが、あくまで重症例は西ゲート診療所、サテライト診療所は軽症対応が原則。設備は「念のため」といった位置付けです。ところが、そんな静けさは突然破られます。診療開始からしばらくして、チーフドクターから私の携帯に緊急連絡が。

「会場内で子どもがけいれんを起こした。救急医を向かわせるが、まず近くのリング北診療所へ搬送するので、ファーストタッチをお願いします!」

子どもちゃん、けいれん……! 一気に緊張が高まります。
 

会場内には電気自動車型の小型救急車も。緊急時には、現場で連携プレー

会場内には電気自動車型の小型救急車が用意されており、サイレンを鳴らしながら3分ほどで患者さんが到着。

「さぁ、どうしよう」と思った直後、小児救急の若い女性医師も、西ゲート診療所から緊急処置のキットが入ったかばんを持って駆けつけてくれました。

幸い、お子さんはすでに意識を取り戻しており、念のため救急車で後方支援病院へ搬送されていきました。私は、診療というより「見守り役」で終わりました。
 

来場者が安心して過ごせるように整えられた医療体制。診療費も発生せず

その他にも、軽症の熱中症や腹痛、食物アレルギーへの点滴処置などを対応しましたが、いずれも無事に診療を終えました。

なお、万博の診療所は保険診療ではありません。マイナ保険証などは不要で、診療費も発生しません。あくまで「応急処置」の場という位置づけです。

当日は外国人の来院はありませんでしたが、遠隔通訳や翻訳機器も完備されており、事務スタッフの方も「これで何とかなっています!」と頼もしいコメントをされていました。
 

大屋根リングでリフレッシュ! おにぎりを食べ、思い出深い一日に

16時半には日誌を書き終え、17時には診療所がクローズ。私もお役御免となり、少し会場内を歩いて回ることにしました。

知り合いの会社が出店しているおにぎり屋さんで、ロボットが握った(?)変わり種おにぎりを買って、大屋根リングの下でおいしくいただきました。

人気の「大屋根リング」はとてもきれいで、海風も心地よく、気がつけば2周。人気パビリオンも外から眺めるだけでもわくわくしました。意外と一人で来ている方も多く、私と同じように散歩感覚で楽しんでいるようでした。

夜の会場はライトアップされて本当にきれいで、1日続いた緊張感がふっと解ける瞬間でした。
 

万博後半も、体調管理をしながら楽しんでください

会期もいよいよ後半に差し掛かっています。私が勤務した日は、万博人気が高まる直前で、来場者もまだ落ち着き、気温も28度前後と比較的穏やかでした。

でも、これからは混雑も増し、大阪の本格的な暑さがやってきます。

大屋根リングの下は日陰で涼しいですが、長時間並ぶ場所もあります。ぜひ熱中症対策を万全にして、万博を楽しんでください。そして、万一のときは迷わず、近くの応急手当所や診療所を頼っていただければと思います。

■参考

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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