一人は耐えられない
「現在、彼が59歳、私が58歳で、ともに離婚経験者。二人とも30代で離婚しています。ただ、彼は前妻が子ども二人を引き取ったので、離婚以来、ずっと独身気分で暮らしてきたみたい。私は逆に子ども二人を育てながら必死で働いてきました。下の子が就職して独立、ホッとしたのが56歳になる直前でした」ルリさんはその後、仕事を続けながら一人でのんびり暮らしていたが、ふと「このままずっと一人?」と気づいてとてつもない寂しさに襲われた。考えたら結婚するまで実家暮らしで、離婚後も子どもがいたため、一人暮らしは初めてだった。
「誰もいない家に帰って、一人でごはんを食べて誰ともしゃべらずに寝る。子どもがいても一人で食事をすることはあったけど、帰ってくればおかずを温め直したりして、あれやこれや話してという生活だった。1年もしないうちに、一人は耐えられないと思いました」
出会って半年で結婚
そのころ仕事の関係で、ノボルさんという男性と知り合った。なにげなく世間話をしながら、互いに離婚経験者だと分かり、一気に距離が縮まっていった。「二人とも離婚経験者で、今、寂しいと思ってる。それが急速に親しくなった要因です。相手の性格がどうとか、一緒にいて心地いいかとか、そういう大事なことが抜け落ちていたような気がする。大人なんだからもうちょっと考えればよかったんですが、恋している気持ちもあったんですよね、一直線に結婚というところにいってしまって」
出会って半年ほどで結婚を決めた。ノボルさんは「前妻も子どもも賛成している」と言う。ルリさんの子どもたちは「もうちょっと慎重に考えた方がいいんじゃないの」と言ったが、彼女は聞く耳をもたなかった。
大きくなっていく不安
「婚姻届を出し、彼が賃貸マンションを解約して私のところに越してきました。うちは離婚当時、夫に財産分与としてもらったマンションで3LDK。夫が自室がほしいというので、子どもたちの部屋を片づけました。子どもたちとの思い出が減っていくような、ちょっと不安な気持ちがよぎったのは確か」それでもなんとか生活が始まったが、ルリさんの不安は大きくなっていくばかりだった。夫は60歳で定年、その後5年は延長できるのに「延長はしない」と言っている。年金がもらえるまでどうするつもり、貯金はあるのと聞いたら、「貯金はない。なんとかなるでしょ」と笑っていたという。
「なんとかなるでしょ、の裏には私が働いているからという意味が込められているんでしょうね。私は定年退職が65歳なので、それまで退職金も入らない。夫は『赤字だったらオレの退職金があるし』とノーテンキなことを言ってます」
夫の長男が告げた事実
そんなとき、夫の長男という男性がルリさんの会社を訪ねてきた。夫はなんと、前妻や子どもたちに結婚する事実を告げていなかったのだという。「夫は、子どもたちも賛成してくれている、そのうち会わせると言ったきりだった。でも長男が言うにはまったく知らなかったと。『別にお付き合いしないでほしいとは思いませんが、せめてどういう方なのか知りたくて』と長男は恐縮しながら言っていました。感じのいい子でしたが、父親に対しては不信感があるようで、いろいろ話しているうちに『あなたがだまされていないといいんですが』と不穏な発言があって……。だまされているわけではないと思うけど、定年後も働くのが嫌だと言って延長はしないらしいという話をしたら、『やっぱり。オヤジは離婚後も母親に金を借りに来たことがあるんです。養育費さえまともに払ってないのに』と。今はまだ本性を隠しているかもしれないから気を付けてくださいと言われました」
驚いたルリさんは、それ以降、夫のお金の使い方を注視していた。結婚して1年半がたったが、ここ数カ月、折半するはずの生活費を出してくれていない。
もっと慎重になればよかった
「そろそろ本性が出てきたのかもと思っています。生活費出してと言うと、今月は不測の事態が多々起こってお金がないとか、友達に貸したとか、変なうそをつくようになっている。自分の家でなければさっさと家出するところなんですが、彼を追い出すのも難しそうで。もうちょっと慎重になった方がいいという子どもたちの意見を、今さらながら思い出しています」再婚しなければ自分の給料でつましく暮らせたのにと少しずつ後悔の念が大きくなっているというルリさん。今月、生活費を払ってくれなかったら、彼の長男に相談してみるつもりだと緊張した表情で言った。
再婚さえすれば人生が楽しくなるわけではない。大人だからこそ熟慮が必要なのかもしれない。