一人親のまま生活していきたい人もいれば、再婚を願う人もいる。それは男女問わず、個人の考え方による。
シングルマザーが再婚を望むとき
「私もずっと再婚したいと思っていました。経済的な問題もあるけど、やっぱり誰かと信頼し合って日々を過ごしたい。娘が3歳のときに夫の精神的DVで離婚し、その後は朝から晩まで働いてきました。娘が小学校に上がるまでにある程度、お金を貯めておきたかったんです。娘が小学校に入ってからは昼の仕事だけにして、なるべく親子で一緒にいられる時間をとっていますが、大人の信頼できる男性といい関係を築きたいという思いはずっと抱えていました」マイさん(42歳)はそう言う。娘は今年、中学1年生になった。部活動に夢中だが、憧れの先輩がいるらしい。
「どぎまぎしてなかなか話しかけられないみたいですが、そのくらいの年齢の淡い恋っていいなあとちょっと羨ましくなります。娘は『ママも恋すれば? 再婚には反対しないよ』と大人びたことを言っていました。娘の本当の気持ちは分からなかったけど」
2歳年下男性と家族ぐるみで付き合うように
3年前、仕事関係で知り合った男性がいる。2歳年下だが、彼との仕事は非常に快適だったとマイさんは言う。仕事が早く、気配りができる彼もまた、マイさんに対して積極的だった。「今度、食事に行きましょうと誘われました。でも私はシンママだから、なかなか夜は難しいのよねというと『じゃあ、娘さんも一緒に。ボクもシンパパですから、うちの息子も連れていきますよ。みんなで焼肉でも行きましょう』って。そんな感じで個人的な付き合いが始まりました」
当初は家族ぐるみ、彼とは友人関係と割り切っていた。だが人見知りしがちな娘が、彼と彼の息子には最初から打ち解けているのを見て、マイさんはうれしくなった。それ以来、時々家族デートを繰り返していたのだが、半年ほどたったとき「たまには二人きりで」と誘われた。
一気に恋に走った私
土曜日、二人は午後からデートをした。娘が友達のところに泊まりに行きたいと言い出したのがきっかけだ。親同士がきちんと話し合って、泊まりに行かせることにした。「もっとみんな気軽に泊まりに行ってると娘が言うから、うちはダメなの。相手の親御さんもちゃんとした人だし、子ども同士で済む話じゃないのよと言い聞かせました。彼にそんな話をしたら、『あなたはきちんとしている。そういうところが信じられる。じゃあ、その日、僕たちはデートしましょう』と。彼の家は母親が泊まりに来てくれるらしくて……」
予想通り、彼から食事のあとにそれとなくホテルへと誘われた。あまりに久しぶりに男性と密着したことだけでマイさんは宙に舞い上がったような気持ちだった。
それ以降、時々そういう日を入れながら、家族ぐるみの関係も続いた。このままいけば結婚ということになるんだろうかとマイさんは想像するようになったという。当然のことだろう。子どものいる関係である。遊びでは済まない。
進展しない関係が一転……
「ところが彼は一向にそういう話を持ち出さない。だんだんと彼の息子は来なくなり、娘もなんだか行きたくないということが増えて。関係性に展開がないことに子どもたちが焦れていったみたい」3年近くたった今年春、マイさんは今すぐというわけではないけれどと前置きして、「そろそろ先の展開を考えてもいいかもね、私たち」とレストランでの食事中に言ってみた。
「先の展開って何、と彼はキョトンとしているんです。私はちょっと居住まいを正して、『私と結婚してくれませんか』と言いました。すると彼はちょっと眉根にシワを寄せて、『女性からプロポーズされるなんて、本当に嫌だ。常識外れだろ』と吐き捨てるように言ったんです。私は私でショックを受けて黙り込んでしまって」
気まずい雰囲気で食事を終えると、彼は会計をし、店を出たところで「じゃあ」と背を向けた。
「何が起こったのかよく分からなかった。それまで優しかった彼が、どうして……と」
それきり彼にはLINEも電話もブロックされた。他のSNSのメッセージ機能も全て拒絶されている。
後から知った彼の本性
それからしばらくたって同僚が彼のうわさ話をしているのを小耳に挟んだ。それによると彼は「かなりの男尊女卑系男子」で、「女のくせにとか平気で社内で言うので、総スカンを食らっているらしい」ということだった。「二人でいるときはほとんど感じたことがなかったけど、私が彼に目がくらんでいただけなのかもしれない。彼としては、女からプロポーズなんてとんでもない、この女はダメだと目が覚めたという感じなんでしょうね」
納得はできたが、自分の男を見る目には自信喪失だったと彼女は言った。その顛末(てんまつ)を、少しはしょりながら娘に話したら「私、なんだかあの人がだんだん図々しくふるまっているような気がして嫌だったんだよね」とつぶやいた。
関係性に展開がないことに焦れたのではなく、娘は彼からどこか不穏なものを感じ取っていたのだろう。自分では冷静でいるつもりだったが、恋の熱に浮かされていたのかもしれないとマイさんは反省しているという。
<参考>
・「2021(令和3)年 国民生活基礎調査の概況 」(厚生労働省)
・「全国ひとり親世帯等調査」(こども家庭庁)