大学受験

『御上先生』はなぜ東大卒の官僚だったのか? エリートと“それ以外”が区別される時代の問題点

いい大学、いい会社……それが成功への王道だと多くの人が信じています。松坂桃李さん主演のドラマ『御上先生』は、東大卒の官僚教師がその常識を覆してみせる新しいタイプの学園ドラマでした。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

松坂桃李さん主演のドラマ『御上先生』は、エリートたちを一蹴する、まったく新しい学園ドラマでした※画像出典:PIXTA

松坂桃李さん主演のドラマ『御上先生』は、エリート学生たちを一蹴する新しいタイプの学園ドラマでした。※画像出典:PIXTA

いい大学を出て、いい会社に入る……それが成功への王道だと多くの人が信じています。しかし、松坂桃李さん主演のドラマ『御上先生』は、東大卒のエリート官僚教師が自らエリートコースを「ただの上級国民予備軍だ」と一蹴する新感覚の学園ドラマでした。

学園ドラマは日本の教育をどう変えたか:“熱血先生”から“官僚先生”へ』(西岡 誠著)では、ドラマや漫画の教育監修をするベストセラー著者が、「金八先生」から『御上先生』まで、歴代の「学園ドラマ」で描かれるテーマとメッセージから、日本の教育と教師像について考えるもの。本書から一部抜粋し、松坂桃李さん主演のドラマ『御上先生』の舞台設定やテーマについて紹介します。
<目次>

『御上先生』の設定は学園ドラマではかなり珍しい

今回は、2025年1月期のドラマである『御上先生』について触れたい。

自分は、このドラマに教育監修という形で関わらせていただいており、脚本の監修や、ドラマで使われる問題や教え方の監修をさせていただいた。脚本家の詩森ろば先生や、プロデューサーの飯田和孝さんともディスカッションした。

日曜劇場で学園モノということで、ドラマ的な演出も多いが、根本には詩森先生も飯田Pも、「今の日本の教育に一石を投じるようなものを作りたい」と考えており、それが形になった作品である。かなりの意欲作だと言っていいだろう。

『御上先生』は今までのいろんなドラマにもない、画期的なドラマだと自分は思っている。第一章で紹介したように、「金八先生批判」のシーンがあることからもわかる通り、今までとは違うものを作るという意欲が表れていると感じる。

そもそもの設定からして従来の学園ドラマと一線を画す。東大卒で文部科学省のエリート官僚が、辞令でエリート私立高校の先生になるというもの。

今まで「破天荒な先生」とか「元ヤンキーの先生」とかそういう設定はあったが、ここまで「エリート」な設定になっているのはとても珍しい。

その上で、御上先生が受け持つクラスも異質だ。偏差値が高く、学年の多くが東大を志望しているという環境である。

今まで、エリート高校が舞台だったドラマというのは少なく、フジテレビで放送された『太陽と海の教室』くらいだった。

『御上先生』がエリートたちに言った言葉

第1話の最初のシーン、御上先生は、エリートと呼ばれてきた頭のいい生徒に対して、こんな風に話す。

「テストでいい点を取って、いい大学に行って、他の人よりもちょっといい生活をする。そんなのは、エリートでもなんでもない。ただの、上級国民予備軍だ」

これはとてもインパクトのあるセリフであり、またこのセリフを聞いて生徒も視聴者も「じゃあ御上先生はどうなんだ? 何がしたくてこの学校に来たの? 」という疑問を抱く、というシーンになっている。

このように、このドラマでは「真のエリート教育とは何か?」ということがテーマの主題に置かれる。2020年代の学校教育や、今まで触れられてこなかったその闇に関して、かなり一石を投じるような内容になっているわけである。

「エリート」と「それ以外」が区別される現在

さて、こうした「エリート高校」が舞台になることはドラマとしては少ないという話をしたが、このドラマが作られた背景をもう少し深掘りしてみよう。

そもそも、1980年代までは、「みんなが大学に行く」という状況ではなかった。特に地方では高卒の割合も多く、大学に行くのが当たり前ではなかった。それが、2000年代に入ってから、少子化の波もあり、大卒が珍しくなくなってくる。「大学全入時代」という言葉も生まれ、入学者数が入学定員総数を下回る状況になってきている。

少子化の時代にあっても塾業界自体の市場規模は大きくなっていて、中学受験の過熱化もあり、「大学受験でいい大学を目指す」というのがそこまで珍しいものにならなくなってきた。

相対的に「Fラン大学」という蔑称も生まれ、より一層「エリート」と「それ以外」が区別されるようになっていった。

その中で、「上級国民」「エリート」に対する批判も強くなっていった。

「東大卒でも社会に出たら使えない」「勉強だけできても意味がない」という声が高まるようになり、それが東大生たちの有力な就職先というイメージがある「官僚」への批判も多くなった結果、「東大・官僚・エリート・上級国民」などに既得権益として厳しい視線が注がれる傾向が強くなっていった。

こういう状況の中で、『御上先生』というドラマは誕生したと考えられる。官僚である主人公が、今の学校教育は間違っている! と自己批判的なニュアンスも含めて改革を行っていく、というまったく新しい学園ドラマが作られるようになったわけである。
  西岡壱誠(にしおか いっせい)プロフィール
東大生、株式会社カルペ・ディエム代表、日曜劇場『ドラゴン桜』監修。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、3年目に合格を果たす。在学中の2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立、代表に就任。全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。テレビ番組『100%!アピールちゃん』(TBS系)では、タレントの小倉優子氏の早稲田大学受験をサポート。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営し、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

カテゴリー一覧

All Aboutサービス・メディア

All About公式SNS
日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
公式SNS一覧
© All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます